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スキルなしの最弱勇者、追い出された先が実は宝の山だったので、日本の知識で楽園国家を建国します  作者: 鈴城幻司
サイドストーリー

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父と子の約束

五年後のストーリーです。


王都での決戦から、五年が過ぎた。


俺たちのニホン国の首都、トーキョーは、今や大陸の辺境で最も活気あふれる街へと、目覚ましい発展を遂げていた。かつて俺たちが手作業で切り拓いた湖畔の平原には、碁盤の目のように整然とした街路が走り、漆喰の壁と瓦屋根の美しい家々が百軒以上も立ち並んでいる。湖には、交易のための船が行き交う港が整備され、アストリア王国や、遠く魔族の国からの商人たちで、日々にぎわいを見せていた。


街の発展と共に、俺の家族も増えた。リリアーナとの間には、長男のアラタに続き、三年前に、ハナという名の娘が生まれていた。


「とーと!見て!」


その日、俺は、執務室を兼ねた自宅の書斎で、新しい灌漑用水路の設計図を引いていた。そこに、息を切らせて飛び込んできたのは、五歳になった息子のアラタだった。その小さな手には、俺が彼のために描いた、鳥の絵本が握られている。


「どうした、アラタ。そんなに慌てて」


「鳥さんは、どうして、お空を飛べるの?人間は、どうして飛べないの?とーとのいた『ニホン』では、人間も、お空を飛んでいたの?」


矢継ぎ早に繰り出される、純粋な問い。その好奇心に満ちた輝く瞳は、若い頃の俺自身に、少しだけ似ている気がした。


「ははは。残念ながら、俺のいたニホンでも、人間は自分の力だけじゃ飛べなかったさ。だがな……」


俺は、ペンを置いた。書類仕事よりも、ずっと大切なことを、息子に教える時が来たようだった。


「……人間は、知識を使えば、空に触れることだってできるんだ。よし、アラタ。とーとが、日本の『科学』っていう魔法を、見せてやる」


俺は、アラタを連れて、ギデオンが管理する工房へと向かった。


「ほう、領主様。今日は、若様とご一緒ですな」


ギデオンは、アラタの頭を、節くれだった大きな手で、優しく撫でた。


「ギデオン、少し、道具と材料を貸してくれ。こいつに、空の飛び方を、教えてやろうと思ってな」


俺が作ることにしたのは、「たこ」だった。


俺は、工房の作業台の上に、大きな紙を広げ、設計図を描き始めた。六角形の、日本の和凧。揚力、抗力、そして重心。俺の頭の中にある航空力学の初歩的な知識を、この世界の材料で、再現していく。


「まず、骨組みだ。軽くて、しなやかで、それでいて、丈夫な木がいい」


俺は、アラタと共に、森へ入った。そして、竹によく似た、この森に自生する植物を数本、切り出した。ギデオンに作ってもらった専用の小刀で、それを薄く、丁寧に削いでいく。


「次は、帆だ。風をしっかり受け止められるように、丈夫な紙が必要になる」


俺たちは、村の女たちが営む、和紙の製法を応用した製紙工房へと向かった。そこで、一番薄くて丈夫な紙を、分けてもらう。


「とーと、これに、絵を描いてもいい?」


「ああ、いいとも。お前の好きな絵を描け」


アラタは、目を輝かせ、夢中になって、紙の上に鳥の絵を描き始めた。それは、彼が絵本で見た架空の鳥だったが、力強い翼を持ち、太陽に向かって飛んでいく見事な絵だった。


数日後、俺たちの凧は完成した。


竹ひごで組んだ骨組みに、アラタの絵が描かれた紙を貼り、麻で作った丈夫な糸を結ぶ。最後にバランスを取るための、長い尻尾をつけた。


「よし、完成だ!」


俺たちは、リリアーナとまだ幼いハナを連れて、トーキョーの街を見下ろす小高い丘の上へとやってきた。そこは、心地よい風が、常に吹き抜ける場所だった。


「いくぞ、アラタ。糸をしっかり持て!」


俺は、風を読み、凧を高く掲げた。そして、風が一番強く吹いた瞬間、その手を離した。凧は、一瞬ふらついたが、やがて風を見事に掴むと、ぐんぐんと空へと舞い上がっていった。


「わあっ!」


アラタが、歓声を上げる。糸を持つ彼の手から、風の力がダイレクトに伝わってくるのだろう。凧は、ぐんぐん高度を上げ、アラタが描いた鳥が、本当に青空を自由に泳いでいるかのようだった。


俺たちは、丘の上の草むらに、大の字になって寝転んだ。空の高くに、小さな点となって見える、俺たちの凧。その光景を、ただ黙って見上げていた。


「すごいよ、とーと!本当に、飛んだ!」


興奮冷めやらぬ様子で、アラタが言った。


「ああ。飛んだな」


「どうして?どうして、ただの木と紙が、お空を飛べるの?」


「それはな、アラタ」


俺は、息子に語りかけるように、言った。


「風の『力』を、上手く受け止めて、上へと昇る『力』に変えているからだ。俺たちが、この凧の仕組みを、『知っていた』からだよ」


「……知っていたから?」


「そうだ。人間は、鳥のように翼を持たない。だが、俺たちには、翼の代わりになる、知識がある。なぜ、物は浮くのか。なぜ、風は吹くのか。そのことわりを知り、正しく応用すれば、人間は、飛ぶことだって、できるんだ」


俺は、空に浮かぶ凧を見上げながら、続けた。


「国を創るのも、これと同じだ。ただ人が集まっているだけじゃ、国は高くは飛べない。しっかりとした骨組み(法や、制度)があり、風を読む力(先の時代を読む力)があり、そして、そこに住む人々の夢という風を、しっかりと受け止めるはんがあって、初めて、国は、天高く、舞い上がることができるんだ」


俺が、このニホン国で、成し遂げたいこと。それは、この凧のように、ここに住む全ての人が、自分たちの夢という風に乗って、どこまでも高く飛んでいける、そんな国を創ることだ。


俺の話を、アラタはどこまで理解できたのだろうか。彼は、ただじっと、俺の目を見つめていたが、やがて力強く言った。


「……僕も、なりたい!騎士様みたいに、剣で戦う人じゃなくて!とーとみたいに、色々なことを知っていて、すごいものを作れる、『賢者』に!」


その言葉が、俺には、何よりも嬉しかった。


俺は、息子の小さな肩を、そっと、抱き寄せた。


リリアーナが、ハナを抱いて、俺たちの隣に、静かに座る。


四人で見上げる空には、俺たちの夢を乗せた凧が、どこまでも、どこまでも、高く、舞い上がっていた。


微笑ましいですね〜


少しサイドストーリーが続きます!


明日も19時に。

どうぞよろしくお願いいたします。

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