「知識」が集う最後の戦場へ
全てが幻だったのか・・・
その日。
俺は、まるで、自分の葬式にでも向かうかのように、何の目的もなく、かつての職場だったあの大型書店へと足を運んでいた。
自動ドアをくぐり、懐かしい紙の匂いを吸い込んだ瞬間、ふと思い出した。
そうだ。俺は、あの出陣の朝、リリアーナから、何かを……。
俺は、震える手で着ていたジャンパーのポケットに手を入れた。もう何年も着古した、くたびれたジャンパー。諦めと退屈だけが詰まっていたはずの、そのポケットの奥に、何かゴワゴワとした小さな布の感触があった。
取り出して、手のひらの上に、広げる。
それは、見慣れた安物の布で作られた、小さなお守り袋だった。下賜されたどんな宝石よりも、どんな金貨よりも、俺が大切にしていたもの。そこには、彼女の、不器用で、しかし、心のこもった星の刺繍が施されていた。
……ある。
ここに、ある。
この、俺の現実の世界に、あるはずのないものが、確かに、俺のこの手の中に。
瞬間、止まっていた俺の世界が、再び色を取り戻した。お守りを握りしめた指先から、彼女の温もりが、祈りが、奔流となって乾ききった俺の心に流れ込んでくる。脳裏に失われたはずの記憶が鮮やかに蘇る。リリアーナの笑顔、アラタの泣き声、ギデオンの頑固な顔、レオの真面目な横顔、ボルグの感謝の言葉、ゼオンの豪快な笑い声、ガイの悔恨の涙、アリアの不器用な優しさ。
あれは、夢じゃなかった。
全て現実だったのだ。俺の仲間も、俺の国も、そして、俺の愛する家族も、確かにあの世界に、存在している。
では、これは、何だ?
俺は、帰ってきた、のではない。
――引き剥がされたのだ。
愛する家族の元から、守るべき国民の元から、理不尽な力によって、一方的にこの孤独な世界へと追放されたのだ。
虚無感は、一瞬にして燃え盛るような、激しい怒りへと変わった。
冗談じゃない。
誰が、こんな結末を受け入れるものか。
俺は、もう運命に流されるだけの、しがない書店員じゃない。
俺は、ニホン国の初代領主、佐山健太だ。
俺は、ポケットにお守りを固く握りしめ、踵を返し、書店を飛び出した。向かう先は決まっている。俺の、最後の戦場。それは、この世界のありとあらゆる「知識」が集まる場所。
国立国会図書館。
夢だけど、夢じゃなかった!!
分かる人だけ分かればいいです |´-`)チラッ
明日も19時に更新します。
どうぞよろしくお願いいたします。




