自由を与えられた勇者が、最後に選ぶ道
差し入れの本を読み始めた勇者でした。
アリアが王都に戻ってから、二週間後。再び、フィンが、命からがらトーキョーにたどり着いた。
「……ダメです! アリア様の報告は、バルドル宰相によって、全て握り潰されました!」
フィンの報告は、絶望的なものだった。
「宰相は、アリア様を『敵に魅入られた裏切り者』として、騎士団の指揮権を剥奪、謹慎処分に。そして、勇者ガイ様の奪還を大義名分に、王国全土から、さらに大規模な討伐軍を招集しています!」
「……規模は?」
「第二次討伐軍、総勢三万!王国最強の、第一から第三までの騎士団全て。さらに、ケラン砦で我々を苦しめた、巨大投石機が二十基。そして何より、王国主席魔術師率いる、百名規模の魔術師団が同行する、と!」
「……もはや、内乱だな」
「ええ。宰相は、この戦を、自らの権力を盤石にするための、最後の大掃除と位置づけているようです。アリア様に同調した貴族たちも、次々と、反逆の罪で捕らえられているとか……」
バルドルは、俺を、そしてアリアさえも、政敵を排除するための駒として、完璧に利用しきったのだ。俺は、ガイの監禁されている部屋へ向かった。彼は、本を読んでいた顔を上げ、俺の深刻な表情から、全てを察したようだった。
「……王都から、知らせか」
「ああ。あんたを『救出』するために、三万の軍勢が、ここへ向かっているそうだ。あんたの意思とは、関係なくだ」
「……」
ガイは、黙り込んだ。その顔には、かつてのような傲慢な怒りはない。ただ、深い苦悩と、悔恨の色が浮かんでいた。
「……俺は、ずっと、英雄になりたかった。民を救い、歴史に名を残す、偉大な英雄に。だが、俺がやったことは、何だ? 民に剣を向け、私欲に満ちた男の、都合のいい人形に成り下がっていただけじゃないか……」
「なあ、ガイ。俺は、あんたに、この街を見てほしい」
俺は、彼の枷を外した。
「……何を!?」
「逃げやしないだろ、あんたは。いや、もう、逃げる場所なんて、どこにもないはずだ」
俺は、困惑する彼を連れて、街を歩いた。
畑で働く元難民たちの、力強い笑顔。工房で、新しい道具作りに没頭するギデオンの、真剣な眼差し。怪我人を、分け隔てなく治療するリリアーナの、慈愛に満ちた姿。そして、広場で、元王国兵の子供と、元難民の子供が、一緒になって泥だらけで遊ぶ光景。
「……これが、俺の国だ」
ガイは、その光景を、言葉もなく、ただ、見つめていた。
櫓の上に、二人で立つ。西の地平線の向こうに、王都から立ち上る、巨大な軍勢の土煙が、うっすらと見えていた。
「俺は、これを守るためなら、悪魔にだってなる。あんたは、どうする? バルドルの人形として、この光景を焼き尽くす側に、本当に、立ちたいのか?」
俺は、彼に、一本の剣を差し出した。それは、彼が捕らえられた時に取り上げた、彼の聖剣だった。
「……選べ、ガイ。お前が、本当に、なりたかった『英雄』の姿を」
ガイは、震える手で、自らの聖剣を受け取った。そして、彼は、初めて、俺の目を見て、はっきりと、しかし、か細い声で、言った。
「……俺は……」
その言葉の続きを、俺は、静かに待っていた。偽りの英雄が、その仮面を脱ぎ捨て、真実の自分と向き合う、その瞬間を。
空には、戦乱を告げる暗雲が、刻一刻と、迫ってきていた。
どうする、ガイーー!!
続きは、明日19時に。
どうぞよろしくお願いいたします!




