停戦交渉の使者、来たる
冷戦状態です。
数日後。
王国軍の陣営から、白旗を掲げた一人の使者がやってきた。
停戦交渉の使者として現れたのは、アリアだった。彼女は、指揮官を失い、士気の低下した軍をまとめるため、昼夜を問わず駆け回っていた。兵士たちの間では、魔の森への恐怖と、得体のしれない「賢者」への畏怖が急速に広まっている。
「これ以上の戦闘は無意味だ」
と主張する彼女のような穏健派と、
「勇者様が囚われたまま、撤退などありえぬ」
と息巻くバルドル派の将校たちとの間で、陣営は分裂の危機に瀕していた。その中で、彼女が選んだのが、俺との直接交渉だった。
街の正門前で、二人きりで対峙する。彼女は、騎士としての務めと、俺たちへの個人的な感情との間で揺れ動いているのか、その表情はひどく複雑だった。
「……勇者ガイ様の身柄を、即刻、解放していただきたい。さもなくば、王都より第二陣、第三陣が送り込まれ、この地は焦土と化すでしょう」
それは、彼女自身の言葉というより、バルドルが書いた脚本を、そのまま読んでいるかのような響きだった。
「アリア。また会ったな。こんな形で、だが」
「……何が言いたい」
「あんたは、一度この街に来ている。その目で、俺たちの暮らしを見たはずだ。あの時と、今とで、何か変わったか? 俺たちは、相変わらず、畑を耕し、家を建て、ただ懸命に生きているだけだ。俺たちは、あんたが剣を向けるべき、反逆者の集団か?」
俺は、門の内側――懸命に復旧作業に励むギデオンや、負傷した王国兵にも分け隔てなく食事を配るリリアーナの姿を、指し示した。
「私の部下たちが、世話になっているようだな。……礼を言う」
「敵も味方もない。怪我人がいれば、助ける。それが、この街のルールだ。それは、あんたが前に来た時と、何も変わらない」
「……」
「あんたが、騎士としての誇りを重んじる人間だということは、知っている。だから、頼みたい。俺に降伏しろ、とは言わない。ただ、あんたが二度もその目で見た『真実』を、王都の、バルドル以外の、まともな貴族たちに報告してほしい。このトーキョーは、本当に、王国が総力を挙げて滅ぼすべき存在なのか、と」
それは、賭けだった。王国の中枢にも、まだ良識を持つ人間が残っていることへの、一縷の望み。
アリアは、長い沈黙の後、静かに頷いた。
「……分かった。このアリア・フォン・ローゼンベルクの名において、私が見た真実を、歪曲なく報告することを誓おう。だが、期待はするな。今の王都は、宰相の黒い影に、完全に覆われている」
彼女は、それだけを言い残し、踵を返した。その背中が、少しだけ、来た時よりも軽く見えたのは、俺の気のせいだろうか。
本当の悪は誰なのか・・・
明日も19時に更新します。
どうぞよろしくお願いいたします。




