厄介すぎる「勇者」という名の捕虜
勇者の力を封じました。
勇者ガイを捕縛した、という衝撃的な報せは、アストリア王国軍を巨大な混乱の渦へと叩き込んだ。
指導者を失い、こちらの仕掛けたゲリラ戦術に心胆を寒からしめた兵士たちは、蜘蛛の子を散らすように森から撤退していった。だが、彼らは完全に兵を引いたわけではなかった。森から数キロ離れた平原に陣を再構築し、遠巻きにこちらを監視している。王都からの、次なる指令を待っているのだろう。
こうして、トーキョーの街と王国軍との間に、奇妙な睨み合い――冷戦状態が始まった。
そして、俺の手元には、「勇者」という、あまりにも厄介で、価値のある捕虜が残された。
戦いの喧騒が嘘のように静まり返った夜、俺は街の見回りをしていた。あちこちで家の損壊が見られ、男たちが懸命にその修復作業にあたっている。臨時の野戦病院となった教会からは、リリアーナの回復魔法の淡い光が漏れ、負傷者のうめき声が微かに聞こえてきた。勝利は、決して無傷では得られなかったのだ。その事実が、ずしりと重く、俺の肩にのしかかる。
「……殺せよ」
檻から、街の一番奥にある、屈強な見張りをつけた家に移されたガイは、憎悪に満ちた目で俺を睨みつけ、そう吐き捨てた。魔力を封じる魔鋼石の枷を付けられてもなお、その凶暴な闘志は衰えていない。
「殺すつもりはない」
俺は、リリアーナが用意してくれた、温かい食事と清潔な水を彼の前に置いた。
「……貴様、俺を辱めるつもりか! 情けをかけるなど、最大の侮辱だぞ!」
「侮辱じゃない。ただの、事実確認だ」
俺は、椅子に腰かけ、まっすぐに彼を見据えた。
「あんたは、俺たちの敵だ。だが、腹は減るだろうし、喉も渇く。違うか?」
「……っ!」
ガイは、言葉に詰まった。彼の頭の中では、敵とは殺し合うだけの存在なのだろう。だが、俺は違う。俺は、目の前にいる男を、一人の人間として見ていた。愚かで、危険で、そして、どこか哀れな、ただの人間として。
「……お前たちのことなど、到底理解できん」
彼はそれだけを絞り出すと、俺に背を向け、壁の一点を見つめ始めた。
俺は、食事に一切手を付けようとしない彼をそのままに、部屋を後にした。この対話は、長いものになる。焦りは禁物だ。
敵と対話する。
こういう人間になりたい。
明日も19時に。
どうぞよろしくお願いいたします。




