最終防衛線――天災と化した勇者
愚かな勇者ガイのプライドは破壊したが・・・
王国軍の陣地から、禍々しいほどの魔力、いや、聖なる力と、何か別の黒い気が混じり合った、巨大なエネルギーが立ち上るのが見えた。
「……賢者殿、あれは!」
ギデオンが、隣で息を呑む。
黄金の鎧を、赤黒いオーラで包んだガイが、一人、再び森へと突撃してきた。その速度は、先ほどとは比べ物にならない。彼が通り過ぎた後には、木々が根こそぎ薙ぎ倒され、一本の巨大な道が出来上がっていた。
「罠が、全部……!」
俺が仕掛けた落とし穴も、丸太も、全てが、彼の圧倒的な力の前に、紙切れのように破壊されていく。民兵の矢など、彼の鎧に届く前に、オーラに弾かれて霧散した。
一人の人間が、天災と化している。
これが、「勇者」の力。
やがて、ガイは、トーキョーの街を囲む、最後の防衛線――俺が設計した城壁と、ゼオンの魔鋼石で補強した正門の前に、たどり着いた。
「開けろ、偽物め! 貴様の首を、王に献上してやる!」
ガイが、聖剣を正門に叩きつける。ズウウウウン! という地響きと共に、巨大な門が大きく軋んだ。魔鋼石が、悲鳴のような金属音を立てる。あと数撃で、破られるだろう。
防壁の上にいた兵士たちが、恐怖に顔を引きつらせる。俺は、静かに、メガホンを手に取った。そして、城壁の最上部、ガイの姿がよく見える場所へと、一人で歩いていった。
「ガイ殿」
俺の落ち着いた声に、ガイは動きを止め、俺を睨めつけた。
「……ようやく出てきたか、卑怯者め!」
「その力、見事なものだ。だが、その力を、一体何のために使っている? あんたがやっていることは、ただの破壊だ。あんたが壊しているのは、女子供が住む家であり、必死に育てた畑だ。それが、勇者のやることか?」
「黙れ! 貴様のような、魔族と通じる裏切り者に、正義を語る資格はない! 俺こそが、王国に選ばれた、真の勇者だ!」
「勇者とは、人に希望を与える存在のはずだ。だが、あんたは恐怖しか与えていない。あんたは、勇者じゃない。ただの、バルドルに操られた、嫉妬心に狂う哀れな人形だ」
「……き、さまぁぁぁ!」
俺の言葉は、計算通りの心理攻撃。それは、彼の心の最も脆い部分を、的確に抉った。理性を失ったガイが、全身の力を聖剣に込めて、門を粉砕すべく、最大の一撃を放とうと構える。
――今だ!
「やれ! ギデオン!」
俺の合図と共に、ギデオンが、城壁の裏に隠された巨大な仕掛けのレバーを引いた。
ガシャアアアン! という轟音と共に、ガイの足元、そして頭上から、魔鋼石で補強された極太の丸太が、格子状にせり上がり、彼の体を寸分の狂いなく閉じ込めた。
「なっ!?」
それは、巨大な檻だった。さらに、檻の内側に仕込まれていた、ゼオンに教わった警報用の魔術印が一斉に発動し、ガイの魔力を一時的に中和する、拘束の光の鎖となって彼に絡みつく。
「ば、馬鹿な!? 力が……!」
数秒前まで天災の化身だった男が、今や、檻の中で力を封じられ、ただただ怒りに吠えるだけの、獣と成り果てていた。
王国軍の兵士たちが、信じられないものを見る目で、その光景に立ち尽くしている。
俺は、檻の中のガイを、冷徹に見下ろした。そこに勝利の喜びはなかった。ただ、一つの仕事を終えたという、重い疲労感と、檻の中で吠える若者への、かすかな憐れみがあるだけだった。
「言ったはずだ。我が国は、国民すべてが兵士だと。そして、俺の武器は、知恵だと」
最初の戦いは、終わった。
だが、俺は知っていた。これは、本当の戦争の、始まりの鐘の音に過ぎないことを。
俺の武器は、知恵。
痺れる〜
明日から新章突入します。
19時に。よろしくおねがいします!




