「本物の勇者」を証明するための戦い
ニホン国を守れ!!
トーキョー防衛構想は、その日から、街の最優先事項として始動した。冬が本格化し、地面が凍てつく前に、やれるだけのことをやる。それは、時間との戦いだった。
ギデオン率いる工兵部隊が、昼夜を問わず土を掘り、石を積み、街の周りに巨大な防衛線を築いていく。その光景は、圧巻だった。俺が設計したのは、日本の城郭都市の知識を応用した、複雑な防御システムだ。湖の水を引いた多重の堀、敵の進軍を強制的に隘路へと誘い込むための食い違い虎口、そして、投石機や弓兵を効果的に配置するための、計算され尽くした櫓と狭間。それは、力で推し進むことしか知らないこの世界の軍隊にとっては、悪夢のような要塞になるはずだった。
だが、城壁だけでは、街は守れない。俺は、住民の中から有志を募り、民兵団の結成を宣言した。
「いいか! 俺たちは、王国の騎士団みたいに、重い鎧を着て、正面から突撃するような戦はしない!」
集まった百人ほどの村人たち――その中には、クロムウェル男爵領から逃げてきたボルグの、たくましく成長した息子の姿もあった――に、俺は言い放った。
「俺たちの武器は、この森そのものだ! 地形を熟知し、地の利を活かし、頭を使って、敵を翻弄する! 力ではなく、知恵で、俺たちの故郷を守るんだ!」
俺は、彼らを専門部隊へと再編成した。弓の得意な者には、俺が設計した、より貫通力の高い長弓を持たせ、ゲリラ戦の基礎を叩き込んだ。手先の器用な者には、ギデオンの元で、罠や仕掛けの設置方法を学ばせた。そして、特に身体能力の高い者たちには、森の中を隠密に移動し、敵の後方を攪乱するための、特殊部隊としての訓練を施した。訓練は、決して楽なものではなかったが、脱落者は一人も出なかった。彼らは、恐怖に怯える難民や、ただの農民ではない。自分たちの手で楽園を築き上げ、そして、それを守るためなら命を懸けることも厭わない、誇り高き「トーキョーの市民」だった。その目には、決意の炎が燃えていた。
防衛準備が本格化し、冬の厳しさがピークに達した、ある雪の夜。
空を覆う巨大な影が、再び、俺たちの街に舞い降りた。
「ゼオン!」
ドラゴンから降り立った旧友の姿に、俺は駆け寄った。移住者たちは、吹雪の中に舞い降りたドラゴンの姿に腰を抜かしていたが、古参の村人たちが「大丈夫だ、ありゃあ領主様のお友達だ」と笑って宥めている。
ゼオンは、ロングハウスの暖かい暖炉の前で、リリアーナの腕の中で眠るアラタの顔を、興味深そうに覗き込んだ。
「はっはっは、こいつか。友人に国と戦う決意をさせた、命の源は」
ゼオンは、アラタを軽々と抱き上げると、俺に向き直った。その顔から、いつもの人の好い笑みが消えている。
「……ケンタ。少し、厄介な話を持ってきた。お前のところの密偵も優秀だが、俺の耳には、もう少し詳しい情報が入ってくる」
執務室で、二人きりになる。俺は、建設中の防衛構想の地図を広げた。
「王都の動きが、本格化してきた。バルドルは、ついに王を説き伏せ、『反逆者ケンタの討伐』の勅令を出させたようだ」
「……アリアたちの報告通りか」
「ああ。だが、状況は、お前たちが聞いているより、少し悪い。討伐軍の総大将は、新しい勇者ガイ。奴さん、最近、ゴブリンの巣をいくつか殲滅し、その残虐極まりないやり方で『英雄』としての名声を高めているらしい。そして、貴様への異常なまでの対抗心を、バルドルに利用されている。奴は、貴様を殺すことで、自分が『本物の勇者』だと証明するつもりだ」
ゼオンは、地図の上で、王国軍の予想進軍ルートを指でなぞった。
「連中、この冬の間に、お前の投石機を模倣した、新型の兵器を揃えているらしい。春の雪解けと共に、軍を動かすのは、間違いない」
「……」
「だが、安心しろ。手をこまねいて、見ているつもりはない」
ゼオンは、懐から、黒く輝く鉱石を取り出した。
「魔界でしか採れぬ、『魔鋼石』だ。鉄の十分の一の重さで、鋼の三倍の強度を持つ。これで、お前たちの防具や門を強化しろ。それと……」
ゼオンは、俺の耳元で、いくつかの古代魔法の防御結界の原理を囁いた。俺自身に魔法の素養はなくても、その理論を理解し、村にいる数少ない魔法の心得がある者たちに教えれば、単純な警報装置や、物理障壁くらいは作れるかもしれない。
「友よ。貴様の創ったこの楽園、そう易々と、愚か者たちに踏み荒らさせてなるものか」
元魔王の力強い言葉は、何よりの励ましだった。
元魔王からの贈り物、ありがたいですね〜
明日も19時に、
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




