絶望の逆子を救え!命懸けの出産
赤ん坊が逆子という事実・・・
リリアーナの魔法も、体力を消耗しきった自分自身には、効果が薄い。時間が経つにつれ、彼女の額には脂汗が浮かび、その呼吸は浅くなっていく。
「だめだ……このままでは、母子ともに……!」
産婆の絶望的な声が、室内に響いた。
俺は、震える足で、リリアーナのそばに駆け寄った。彼女は、朦朧とする意識の中で、俺の手を弱々しく握った。
「……あなた……赤ちゃんを、お願い……」
「喋るな! 体力を消耗する! 諦めるな、リリアーナ! 俺が、俺たちが、絶対に助ける!」
俺は、彼女の手を握り返し、産婆たちに叫んだ。
「今すぐ、大量の熱湯と、清潔な布を用意してくれ! それから、俺の言う通りに動いてくれ!」
俺の頭の中では、現代医学の知識が、猛スピードで回転していた。産婆が、胎児の向きを母体の外から変えようとする「外回転術」。その手順、リスク、注意点。本で読んだだけの、実践したこともない知識。だが、今は、それに賭けるしかなかった。
「リリアーナ、聞こえるか! 俺に合わせて、呼吸をするんだ! 吸って、……吐いて……!」
俺は、彼女の呼吸を導きながら、産婆に的確な指示を飛ばした。腹部を圧迫する位置、タイミング。
「そんなこと、聞いたこともない!」
「もしものことがあったら!」
と抵抗する産婆たちに、俺は
「俺が全責任を負う! 言う通りにしろ!」
と、生まれて初めて、心の底から怒鳴った。それは、この世界の常識からは、かけ離れた医療行為だった。誰もが、俺の狂気に満ちた行動に、息を呑んでいた。
長い、長い、死闘のような時間だった。
そして、リリアーナの最後の力を振り絞った叫び声と共に、一つの新しい命が、産声を上げた。
元気な、男の子だった。
安堵のあまり、その場にへたり込んだ俺の腕に、産婆が、布にくるまれた小さな赤ん坊をそっと置いてくれた。温かい。そして、驚くほど、重い。これが、俺の子供。俺と、リリアーナの、命の結晶。
言葉にならない感情が、胸の奥から突き上げてきて、視界が滲んだ。俺は、ただただ、その小さな顔を見つめ、涙を流し続けた。
俺たちは、その子に「アラタ(新)」と名付けた。新しい村、新しい生活、そして、俺たちが創っていく、新しい未来。その、すべての象徴となるように。
数日後、体力を回復したリリアーナの腕の中で、健やかに眠るアラタの顔を眺めながら、俺は、静かな決意を固めていた。
王都の影が、すぐそこまで迫っている。バルドルも、新しい勇者ガイも、いつか必ず、この楽園を脅かしに来るだろう。以前の俺なら、ただ平穏な生活だけを望んだかもしれない。
だが、今は違う。
俺には、守るべきものができた。この腕の中にいる、小さな命。愛する妻。そして、俺たちを信じてついてきてくれた、かけがえのない仲間たち。
この楽園を、誰にも奪わせはしない。
穏やかな開拓者の日々は、終わった。これからは、父として、領主として、このトーキョー村を、未来の「ニホン」を、守り抜くための戦いが始まるのだ。
無事に生まれました\(^^)/
次回は新章突入します!
明日19時に、よろしくお願いします!




