最強の友、来たる
トーキョー村、楽園です!
新たな仲間が加わり、村がさらに活気づいてきた、ある日の夕暮れ。それは、突如としてやってきた。西の空から、巨大な影が、信じられない速度で近づいてくる。それは、鳥ではなかった。翼を持つ、巨大な爬虫類。
「……ドラゴン!?」
誰かの絶叫が、村中に響き渡った。鐘が乱打され、移住者たちは恐怖に顔を引きつらせて家に逃げ込み、元兵士たちは絶望的な顔で空を見上げる。伝説の、最強の魔物。あんなものが一匹いるだけで、国が滅ぶと言われる厄災の象徴。
そのドラゴンが、轟音と共に、村の外れの平原に着地した。巻き起こった風圧が、家々を揺らす。もう終わりだ。誰もが、そう思っただろう。だが、俺は、そのドラゴンの背から、ひらりと降り立った人影に見覚えがあった。
「よぉ、ケンタ」
まるで、近所に散歩にでも来たかのような、軽い口調。長い黒髪を風になびかせ、悠然とこちらへ歩いてくる、その男。
「……ゼオン!?」
「久しぶりだな。追放されたと聞いて、様子を見に来てやったぞ。ずいぶんと、楽しそうなことをやっているじゃないか」
元魔王は、愉快そうに笑った。俺は、震え上がっている村人たちに向かって、大声で叫んだ。
「心配するな! 敵じゃない! 俺の……友達だ!」
その言葉が、ドラゴン出現の衝撃よりも、さらに大きな衝撃を村人たちに与えたことは、言うまでもない。
俺は、元魔王ゼオンに、俺たちの村を案内して回った。彼は、子供のように目を輝かせ、俺たちの創造物の一つ一つに、深い感嘆の声を上げた。
「ほう、これが井戸か! なるほど、地下水脈を利用するとは、実に合理的だ」
「この建物……高床式、と言ったか。ふむ、風通しが良く、湿気にも強い。魔族の建築術にも、取り入れたい発想だな」
「なんだこの食べ物は!? 豆を発酵させただと?……む、むむ!……不味い! だが、妙に後を引く……!」
まだ完成には程遠い、試作品の味噌を舐めさせた時の彼の反応は、傑作だった。そして、彼が最も感動したのは、温泉だった。
「……素晴らしい。これほど、魂が洗われるような感覚は、初めてだ……。ケンタ、貴様は、本当に天才だな」
その夜、俺たちは、ロングハウスで二人、酒を酌み交わした。ゼオンは、魔王の座を穏健派の後継者に譲り、今は一人の学者として、世界中を旅しているのだという。
「貴様と話して、気づかされたのだ。世界は、力で支配するよりも、知る方が、ずっと面白い」
彼は、俺の追放の話を聞くと、心から憤慨してくれた。
「愚かなことだ。貴様という宝を、自ら手放すとは。アストリアの王も、焼きが回ったな。……実は、王都の様子も少し見てきたが、あまり良い空気ではなかったぞ。新しい勇者が立ったという話だが、どうも、性根の腐った若造らしい。宰相が、それをいいように利用している、と専らの噂だ」
そして、彼は、旅の土産だと言って、一つの袋を俺に差し出した。
「魔界の作物だ。瘴気が強い土地でもよく育つ。栄養価も高い。貴様の知識で、もっと美味しく育ててやってくれ」
それともう一つ、と彼が取り出したのは、対になった黒曜石のペンダントだった。
「念話石だ。弱い魔力でも、緊急時には、俺に声を届けることができる。……まあ、使う機会がないのが一番だがな」
それは、何よりの贈り物だった。
元魔王ゼオンとの友情。
すごくいいなって。
明日も19時に更新します。
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