隣領からの逃亡者たち
トーキョー村、順調です!
村の生活は、穏やかで、満ち足りていた。だが、その平穏は、ある日、破られることになる。
「領主様! 大変です! 森の入り口に、武装した一団が!」
見張り台からの報告に、村に緊張が走った。収穫作業をしていた男たちが、即座に鍬を槍に持ち替え、女子供をロングハウスに避難させる。その動きには、かつての素人集団の面影はなく、自分たちの故郷を守ろうとする兵士の覚悟があった。バルドルが、ついに俺たちを排除するために、討伐軍を送ってきたのかもしれない。
俺は、ダリウスから託された馬に乗り、数人の護衛と共に、森の入り口へと急いだ。
そこにいたのは、討伐軍ではなかった。ボロをまとい、痩せこけた、十数人の男女子供。その手にあるのは、錆びた農具や棍棒だけで、敵意よりも、むしろ怯えと絶望の色が濃かった。リーダーと思しき、髭面の男が、俺の姿を認めると、地面に膝をついた。
「……あ、あなたが、この森を治めているという、賢者様ですかい?」
「俺はケンタ。ここの一応の責任者だ。あんたたちは?」
「お、おらは、ボルグと申します。隣のクロムウェル男爵領から……飢えて、逃げて参りやした」
ボルグと名乗る男の話は、悲惨なものだった。クロムウェル男爵領では、魔王軍との戦いの後、法外な戦後復興税が課せられ、民は収穫物の大半を奪われたという。
「男爵様は、王都から戻られてから、人が変わっちまった。戦で受けた傷を癒すんだと、高価な薬を買い漁り、その金を、俺たちから血も涙もなく搾り取るんでさぁ……」
貴族の贅沢のために、民は飢える。この世界の、ありふれた理不尽。
「そんな時、噂を……王都から追放された英雄様が、この呪われた森に、人が暮らせる楽園を創っている、と……。藁にもすがる思いで、ここまで……! どうか、我らを奴隷としてでもお使いくだせえ! このままでは、冬を越せずに皆、飢え死にするだけでさ!」
彼らは、深々と頭を下げ、懇願した。その夜、村では緊急の集会が開かれた。
「受け入れるべきではありません!」
レオが、厳しい表情で反対した。
「我々の備蓄は、ようやく冬を越せる量が確保できたばかり。これ以上の人口を、今は支えきれません!」
「だが、見捨てるのか?」
と、元兵士の一人が反論する。
「彼らは、俺たちと同じ、行き場のない人間だぞ」
意見は、真っ二つに割れた。だが、リリアーナは、悲痛な顔で皆に訴えかけた。
「皆さん、思い出してください。私達も、かつては追われる身でした。あの時の絶望を、忘れてしまったのですか? ここで彼らを見捨てたら、私達は、私達を追いやった者たちと、同じになってしまいます」
彼女の瞳が、何を言いたいのか、俺には痛いほど分かった。見捨てることなど、できるはずもない。
「……分かった。受け入れよう」
翌朝、俺はボルグたちに決断を告げた。ボルグたちは、わっと泣き崩れた。
「ただし、奴隷じゃない。俺たちの、新しい仲間としてだ。その代わり、死ぬ気で働いてもらう。この村のルールに、従ってもらう。それでいいな?」
「は、はい! もちろんでさぁ!」
こうして、トーキョー村に、初めての移住者がやってきた。彼らは、俺たちの村を見て、腰を抜かさんばかりに驚いていた。清潔な井戸、頑丈で暖かいロングハウス、燻製肉の豊かな香り、そして何よりも、夜の闇を照らす光るキノコの街灯と、体の芯から疲れを癒す温泉。飢えと搾取しか知らなかった彼らにとって、この場所は、噂通りの、いや、噂以上の楽園に見えただろう。
奴隷ではなく、新たな「仲間」として――
こういう村があったら移住したいなって。
明日も19時に。
どうぞよろしくお願いいたします。




