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スキルなしの最弱勇者、追い出された先が実は宝の山だったので、日本の知識で楽園国家を建国します  作者: 鈴城幻司
第6章:楽園の噂と、黒翼の来訪者

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森の開拓村を「世界一の街」へ

温泉、最高ーー!!


魔の森に移り住んでから、季節が一度巡った。


最初の過酷なサバイバル生活を乗り越え、俺たちの住居と畑がようやく形になった頃、ギデオンが提案した。「領主様、俺たちのこの村にも、そろそろ名前が必要じゃありませんか?」と。


集会で皆に意見を求めると、「ケンタ村」だの「開拓村」だの、実直な名前が次々と上がった。だが、俺の心には、ずっと引っかかっている名前があった。 口にするのを、ためらっていた名前。あまりにも途方もなく、そして、あまりにも恋しい、故郷の街の名。


「……『トーキョー』と、名付けたい」


俺の言葉に、皆がきょとんとした顔をした。リリアーナが、そっと尋ねる。


「トーキョー、とは、どういう意味ですの?」


「俺がいた世界の、故郷の街の名前だ。何千万人もの人が暮らし、世界で一番発展した、巨大な街だった」


俺は、一度言葉を切り、皆の顔を見回した。


「この小さな村に、そんな名前は、大げさで、馬鹿げているように聞こえるかもしれない。俺の、ただの郷愁だと思うかもしれない。だが、これは、過去を懐かしむ名前じゃない。未来への、誓いの名前だ。いつか、この場所を、俺の故郷のように、多くの人々が、安全に、豊かに、笑って暮らせる、世界一の街に育ててみせる。その、俺の決意の証として、この村を『トーキョー村』と名付けたいんだ」


俺の言葉に、水を打ったような静寂が訪れた。そして、次の瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が、小さな村を揺るがした。 こうして名付けられた「トーキョー村」は、もはや生存のためのキャンプではなく、一つの確固たる生活共同体へと変貌を遂げていた。


春には、リリアーナが持ち込んだ種と、俺が森で見つけた食用の植物を植え、夏には、湖で泳ぎ、魚を捕った。そして秋。俺たちが初めて自分たちの手で育てた作物が、黄金色の実りを迎えた。村で最初の収穫祭を開いた夜、皆で焚き火を囲み、採れたての野菜とレイザー・ボアの丸焼きを頬張りながら、夜が更けるまで歌い、踊った。厳しい冬の間、俺たちは暖かなロングハウスの中で、ギデオンの指導のもと、来季に使う農具や、漆を塗った美しい食器を作って過ごした。


この一年で、俺たちはただの寄せ集めの集団から、固い絆で結ばれた一つの「村人」になっていた。


ギデオンが棟梁となって建てた高床式のロングハウスは、今や村のシンボルだ。その隣には、俺の設計に基づいた製材所や燻製小屋、そして漆を塗るための工房が並び、人々の活気に満ちている。


レオの指揮の元、資源管理は徹底され、備蓄倉庫には塩漬けの肉や乾燥キノコ、木の実などが潤沢に蓄えられていた。


そして何よりの自慢は、リリアーナが丹精込めて育て上げた畑だ。この土地の驚異的な肥沃さと、彼女の献身的な世話によって、王都から持ってきた種は、元の何倍もの大きさの見事な野菜を実らせた。カボチャは馬車のように巨大に育ち、ジャガイモは一つで大の男の胃袋を満足させた。あの最初の収穫祭の夜、村人たちが俺とリリアーナを担ぎ上げ、「領主様!」「姫様!」と口々に感謝の言葉を叫んだ時の、あの熱狂と笑顔は、今も俺の胸に焼き付いている。


俺自身の、個人的なプロジェクトも、着実に進んでいた。


「ケンタ様、本当にこのような……田んぼに水を張るだけで、作物が育つのですか?」


ギデオンが、泥だらけの顔で、不思議そうに尋ねる。俺たちの目の前には、湖から水路を引き、段々畑のように造成した、世界初の「水田」が広がっていた。


「ああ。俺の故郷では、これが米……主食を育てるための、千年以上続く農法なんだ」


森で発見した、稲の原種に近い野生の穀物を育てるための、壮大な実験。この世界の誰もが知らない、水を張って土地の栄養をコントロールし、雑草の繁殖を抑えるという米作りの概念は、彼らにとっては魔法か何かのように見えただろう。だが、俺のこれまでの「発明」を目の当たりにしてきた彼らは、文句一つ言わず、俺の指示通りに汗を流してくれた。いつか、この水田で取れた米で、炊き立ての白飯を食べる。それが俺の、ささやかな、しかし何よりも切実な夢だった。


工房の片隅では、発酵の進む木桶が、ぷつぷつと小さな音を立てていた。森で見つけた大豆に似た豆と、特殊な麹カビを繁殖させて作る、醤油と味噌。あの懐かしい味を、この世界で再現するための、長い長い挑戦。時折、桶の蓋を開けては、その芳醇な香りの変化に、一人胸を躍らせるのが俺の密かな楽しみだった。


米と味噌と醤油があったら、

もう他に何もいらない。


いや、お酒もほしい。

あと、お酢と油と・・・


明日も19時に更新します。

よろしくお願いします!

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