地獄の釜と極上の湯
暮らしが整ってきました!さらに・・・
夜の帳が下りると、ロングハウスの中はまるで深海のような静寂と色彩に包まれた。洞窟から持ち帰った「爆発茸」――衝撃を与えると発光する特性を持つこのキノコが、カンテラの中で幻想的な青白い光を放っているからだ。
火を使わない安全で神秘的な明かりの下、俺たちはその日の成果を語り合った。かつての俺たちにまとわりついていた、追放者特有の悲壮感など、そこには微塵もない。あるのは、自分たちの手で未開の地を切り拓いているという、確かな熱と充実感だけだった。
そんなある日、街の周辺の地質調査をしていた俺は、奇妙な兆候に気づいた。特定のエリアだけ、地面から微かに地熱が感じらる。そして風に乗って漂う独特の硫黄の匂い。本で読んだ知識と、前世の記憶がリンクし、俺の頭の中で一つの確信へと変わった。
「ここだ。ここを掘ってくれ!」
俺はギデオンたちを呼び寄せ、その場所を掘削させた。すると、湯気を立てた豊富な湯が、岩盤の下から湧き出してきた。シューッという激しい音と共に、視界が白く染まった。
「な、何だこれは!? 熱い煙だと!?」
「地獄の釜が開いたのでは……!?」
モクモクと立ち昇る白煙と、溢れ出る熱湯。それに触れて飛びのく兵士たちを見て、俺は快哉を叫んだ。
「違う! 地獄じゃない、天国への入り口だ。これは疲れを癒し、傷を治す、大地の恵みだ!」
俺の説明に半信半疑ながらも、皆で協力して湯だまりの周りを石と木で囲い、即席の巨大な露天風呂をこしらえた。この世界に、娯楽としての「温泉」が誕生した瞬間だった。
その夜。
満点の星空の下、俺たち全員が生まれたての温泉に浸かっていた。
「おお……、なんという……」
湯が、ここ数週間の肉体労働で凝り固まった筋肉を、芯からじんわりと解きほぐしていく。肌を撫でる湯の柔らかさ、鼻孔をくすぐる硫黄の香り、そして、虫の声と風の音しかしない、森の静寂。五体の全てが、ゆっくりと、大地に溶けていくような感覚だった。
「はぁ〜……、極楽、極楽……」
「生きててよかった……」
あちこちから、心の底からの感嘆の声が漏れる。誰もが、満ち足りた笑顔を浮かべていた。湯気に包まれた彼らの顔は、誰もが子供のように無防備だった。
俺は、隣で気持ちよさそうに目を閉じているリリアーナの横顔を、そっと盗み見た。湯に濡れた彼女のプラチナブロンドの髪が、月光を浴びてキラキラと輝いている。
「……夢のようですわ」
彼女が、そっと呟いた。
「王城のお風呂よりも、ずっと、気持ちがいい。それに、こうして皆さんと一緒に入れるなんて」
「ああ。ここじゃ、王女も元勇者も関係ない。皆、ただの開拓仲間だ」
王都の偽りの栄華も、書店での色のない日常も、今はもう、遠い昔の出来事のようだ。呪われた地と呼ばれた、この魔の森で。信頼できる仲間たちに囲まれて、自分たちの手で楽園を創り上げていく。
俺は、生まれて初めて、心の底から「家に帰ってきた」と、そう感じていた。
予約投稿に失敗していたようで、、
昨日アップできてませんでした。。。
申し訳ございませんでしたm(_ _)m
明日は19時で大丈夫です。
どうぞよろしくお願いいたします!




