元騎士団が恐れる獣の、意外な末路
レイザー・ボアを仕留めろ!
息を殺して待つこと、1時間。
ガサガサという木々を揺らす音と共に、地響きが近づいてきた。そして、そいつは現れた。小型の象ほどもある巨体に、剃刀のような牙。血走った赤い目が、貪欲に獲物を探している。その威圧感に、誰もが息を呑んだ。
レイザー・ボアは、俺が撒いたキノコの匂いに誘われ、一切の警戒もなく、獣道を突き進んでくる。そして――轟音と共に、その巨体が地面に消えた。
作戦は、成功だった。
落とし穴の底で暴れる巨獣を、上から槍で仕留めるのは、もはやただの作業だった。
山と積まれたレイザー・ボアの肉を前に、仲間たちは歓声を上げたが、俺は一人、頭を抱えていた。
「どうしたんですかい、領主様?」
「この量だ。いくら腹を空かせた男たちが揃っているとはいえ、三日もすれば腐り始める。このままでは、大半を無駄にしてしまう」
俺の言葉に、皆の顔から笑顔が消えた。だが、俺はニヤリと笑ってみせた。
「だが、やり方がある。俺の故郷の、古い知恵だ。肉を、煙で燻すんだよ」
燻製という概念がない彼らに、俺は、サバイバルの本で読んだ知識を元に、燻製小屋の作り方を説明した。湿気を含んだ木は煙が出やすいこと、使う薪の種類で香りが変わること。ギデオンをはじめとする職人たちは、目を輝かせて俺の言葉に聞き入った。
さらに、俺は狩りの道中で見つけていた、ある場所へと仲間たちを導いた。それは、むき出しになった白い岩肌だった。
「領主様、これが何か?」
「岩塩だ。地質学の本で読んだ。こういう地形には、塩の鉱脈が眠っていることがある」
舐めてみると、それは間違いなく塩だった。仲間たちから、肉の確保とはまた違う、歓喜の声が上がる。これで、俺たちの食文化は、劇的に豊かになる。
その日のうちに、簡素だが機能的な燻製小屋が完成した。解体した肉に塩をすり込み、小屋に吊るしていく。そして、じっくりと時間をかけて燻し始めると、やがて、食欲をそそるたまらない香りが、村中に立ち込めた。 その夜、俺たちは、獲れたての新鮮な肉と、初めて作った燻製肉を肴に、盛大な祝宴を開いた。滴る脂の焼ける香ばしい匂いと、仲間たちの笑い声。それは、俺たちがこの地で初めて手に入れた、「勝利」と「未来への備え」の味だった。
そして、俺はこの獣から、肉だけでなく、もう一つの資源を見つけ出していた。その牙だ。鋼鉄に匹敵するほどの硬度を持つこの牙は、ナイフや鍬の刃先として、最高の素材になるだろう。
最初の正念場だった一週間が過ぎる頃には、俺たちの生活基盤は、驚くべき速さで形になっていた。
高床式のロングハウスは、その骨組みをほぼ完成させていた。井戸からは、澄んだ水がこんこんと湧き出し、皆で歓声を上げた。リリアーナの畑では、小さな緑の双葉が、黒い土から健気にも顔を出していた。
俺は、この生活をより豊かにするための、新たな「発明」を次々と導入していった。
まずは、衛生管理。
共同体のすぐそばに、男女別の「厠」、つまりトイレを設置した。もちろん、ただの穴を掘っただけのものだが、井戸や居住区からしっかりと距離を置き、風下の場所を選ぶ。排泄物を生活空間から隔離するという、この世界の人間にはない概念は、目に見えない病から俺たちを守ってくれるはずだ。
最初は「面倒だ」「外で済ませばいい」と不平を言っていた者も、一度、清潔な環境の快適さを知ると、文句を言わなくなった。
そして、「漆」だ。血吸い葛から採取した樹液を、木を削り出して作った食器に塗り重ねていく。乾いた漆の器は、美しい光沢を放ち、水も漏らさなければ、熱いスープを入れてもびくともしない。ギデオンは、その魔法のような技術に、ほとんど狂喜乱舞していた。
食文化、大事ですよね〜
どんどん暮らしが整う〜
明日も19時に公開します。
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