旅の終わり、第一の関門
元王女も加わりました。
魔の森までの道のりは、二週間を要した。
最初はどこかぎこちなかった俺たちも、旅を続けるうちに、一つの家族のようになっていった。
昼は、俺が道端の草を指さしては、
「これは食べられるが、こっちは毒だ」
とか、
「この岩の層の下には、綺麗な水脈があるはずだ」
とか、本で得た知識を披露した。
夜は、焚き火を囲み、ギデオンが古い武勇伝を語り、レオが故郷の歌を歌った。
ある晩、食料が尽きかけたことがあった。誰もが不安に沈む中、俺は、川で魚を捕るための簡単な罠の作り方を皆に教えた。翌朝、その罠に大量の魚がかかっているのを見た時の、皆の歓声。そんな小さな成功体験の積み重ねが、俺たちを一つのチームにしていった。
リリアーナは、驚くほどたくましかった。文句一つ言わず、皆のために食事の準備を手伝い、兵士たちの擦り傷を回復魔法で癒して回った。最初は、元王女である彼女に、どう接していいか分からず、遠巻きにしていた兵士たちも、その献身的な姿に、次第に心を開いていった。彼女の優しさと明るさは、旅の疲れを癒す何よりの薬だった。
焚き火の隣で、彼女と二人きりで話す時間も増えた。
「ケンタ様は、本当に物知りなのですね」
「ただの、本の虫だっただけだよ。自分の知らないことがあるのが、許せない性質でね」
「いいえ。その知識が、どれだけ私達を助けてくれているか。……私、あなたに出会えて、本当に良かった。あの城にいた頃は、私の世界は、あの高い壁の内側だけでした。でも、今は、毎日が新しい発見で、満ちています」
そう言って微笑む彼女の横顔を見ていると、胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。王都で失った人間への信頼が、少しずつ回復していくようだった。
そして、旅の終わりは、唐突にやってきた。
目の前に、巨大な壁のように、どす黒い森が広がっていた。ねじくれた木々が空を覆い隠し、昼間だというのに薄暗い。そして、森の入り口には、見るからに不健康そうな、淡い紫色の靄――瘴気が、淀むように漂っていた。
街道に設けられた粗末な砦の衛兵が、憐れむような目で俺たちに言った。
「旦那方が、新しい辺境伯様御一行ですかい。物好きにも程がある。あの瘴気に触れれば、たちまち体を病み、長くは生きられねぇ。森の獣は鎧なんぞ紙切れのように引き裂く。どうか、ご無事で」
その言葉に、兵士たちの顔がこわばる。
だが、俺は馬車を降りると、瘴気に向かってまっすぐに歩いていった。
「ケンタ様!危ない!」
リリアーナが悲鳴を上げる。
俺は、瘴気の手前で立ち止まり、その匂いを注意深く嗅いだ。硫黄に似た、独特の匂い。そして、この地形。近くに、古い火山でもあるのかもしれない。
「……大丈夫だ。これは、呪いの類じゃない。火山性のガスだ」
俺は皆に、水で濡らした布と、荷馬車の荷台の隅に積んでおいた木炭を砕いたものを持ってくるように指示した。そして、濡れた布で木炭の粉を包み、簡易的なガスマスクを作った。
「これを口に当てて。木炭が、有毒な成分を吸着してくれる」
半信半疑で、皆が俺の作ったマスクを口に当てる。そして、恐る恐る瘴気の中へ足を踏み入れた。ひんやりとした、湿った空気が、肌を撫でる。だが、呼吸は、驚くほど楽だった。
「……本当だ!息が、苦しくない!」
レオが、驚きの声を上げる。
第一の関門は、こうして呆気なく突破された。
魔の森なんて怖くない!
知識で乗り越えろーーー
明日も19時更新です。
どうぞよろしくお願いいたします。




