偽りの城を捨てて、いざ真実の旅へ
新しい領地へ。
王都を出て、半日ほど馬車を走らせた頃だった。
「ケンタ様! 後方より、騎馬が一騎! 猛スピードでこちらへ向かってきます!」
見張り役の兵士の叫び声に、俺たちは一斉に身構えた。追手か? バルドルのことだ、俺を生かして王都から出すつもりが、そもそもないのかもしれない。皆の顔に緊張が走る。俺は、アリアにもらったナイフの柄を、強く握りしめた。
だが、地平線の向こうから現れたその人影を見て、俺は我が目を疑った。
月明かりの下、美しいプラチナブロンドの髪をなびかせて馬を駆るのは、この世の者とは思えぬほど可憐な、一人の少女。
「リリアーナ!? なぜ、あなたがここに!」
息を切らせて馬を止めた彼女は、凛とした表情で俺を見つめ、言い放った。
「お供します、ケンタ様」
「なっ……何を言ってるんだ! あなたは王女だろう!」
「正気か!? 俺が行くのは、魔の森だぞ! 人が生きて帰れないと言われる、呪われた土地だ!……待て、そもそも、お父上は……国王陛下は、よくお前をここへ行かせてくれたな? 止められなかったのか?」
俺の当然の疑問に、リリアーナは一度、悲しげに目を伏せた。だが、すぐに顔を上げ、その瞳には、より強い光が宿っていた。
「……止められました。父は激怒し、私を愚か者だと罵り、部屋に閉じ込めるように衛兵に命じました」
彼女は、静かに語り始めた。王都での、最後の夜のことを。
「でも、私は言ったのです。『お父様、あなたこそ、目を覚ましてください』と。『あなたは、国を救った英雄を、私欲のために追いやった宰相の言いなりです。それは、王の行いではありません』と」
彼女の言葉に、俺は息を呑んだ。
「『この王冠も、ドレスも、私にとっては、嘘と偽りで塗り固められた、ただの鳥かごです。私は、呪われた森で泥にまみれようと、真実と共に生きられる人のそばにいたい。この城で、偽りの姫を演じ続けるのは、もう嫌なのです』……そう、訴えました」
彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「父は……何も言えなくなり、ただ、玉座で、小さく震えていました。そこに、バルドル宰相が現れたのです。宰相は、笑って言いました。『陛下、よろしいではございませんか。姫君は、かの反逆者に、すっかり染まってしまわれたご様子。王家から出ていっていただけるのなら、むしろ好都合』……と」
リリアーナは、涙をぐっとこらえ、俺を真っ直ぐに見つめた。
「もう、お分かりでしょう? あの国は、あの城は、もう、私のいるべき場所ではないのです。だから、私は来た。自分の意志で、自分の足で。だから……」
リリアーナは、叫ぶように言った。その瞳には、涙が浮かんでいた。
「分かっています! ですが、私はもう、あの城にはいられません! 父や、家臣たちの前で、嘘の笑顔を浮かべて生きるのは、もう嫌なのです! 正義を捨て、恩人を裏切るような国に、私の心は留まれません!私は……信じるべき人のそばで、生きたいのです! あなたと共に、行かせてください!」
その魂からの叫びに、俺も、ギデオンたちも、ただ圧倒されていた。
「それに……」
と、彼女は少しだけはにかんで、馬の鞍から下ろした袋を見せた。
「私も、お荷物になるつもりはありません。王家の温室から、薬草の種や、改良された野菜の種をたくさん持ってきました。それに、回復魔法も、少しだけ使えます。あなたの力に、なれるはずです」
彼女は、守られるだけの姫ではなかった。自分の意志で未来を選び、そのために自ら武器を用意してきた、一人の強い人間だった。
俺は、天を仰いで、深呼吸を一つした。
もう、断る言葉など、何一つ思い浮かばなかった。
「……後悔しても、知らないからな」
俺がそう言うと、彼女は、満開の花のように、ぱあっと笑った。
こうして、俺たちの奇妙な一行に、一人の元王女が加わった。それは、単なる追放者の旅が、新たな国を興すための、希望に満ちた旅へと変わった瞬間だった。
真実と共に生きられる人のそばにいたい。
リリアーナ、いい子だなぁ・・・
幸せになってほしいなぁ・・・
明日も19時に。よろしくお願いします!




