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凱旋は、静かなる断罪の始まり!?

魔王と勇者、奇妙な友情が芽生えました。


魔王ゼオンとの握手から、一月後。俺たちアストリア王国軍は、意気揚々とした凱旋を果たした。


王都の目抜き通りは、俺たちの帰還を歓迎する民衆で埋め尽くされていた。窓という窓から花吹雪が舞い、割れんばかりの歓声が降り注ぐ。


「賢者様!」

「救国の英雄!」

「ケンタ様!」

という熱狂的な呼び声が、俺の鼓膜をくすぐった。道沿いの民衆の中には、涙を流しながら手を合わせる老婆や、父親の肩車の上で必死に手を振る子供の姿もあった。彼らにとって、俺は家族を、日常を、未来を守った救世主そのものなのだろう。


その純粋な感謝の念は、あまりにも重く、そして温かかった。馬上で民衆に応えるダリウスの隣で、俺は借りてきた猫のように縮こまるしかなかった。書店で万引き犯を捕まえた時でさえ、こんなに注目を浴びたことはない。自分が、この英雄という役を演じきれていない詐欺師のような気分だった。


その凱旋式は、そのまま玉座の間での叙勲式へと続いた。


「面を上げよ、勇者ケンタ!」


玉座から響くアルフォンス王の晴れやかな声。俺は跪いたまま、ゆっくりと顔を上げた。


「そなたの智謀、まこと見事であった! 我が軍の犠牲を、信じられぬほど少なく抑え、あの魔王軍を屈服させるとは、まさに神業! そなたこそ、我が国、いや、この大陸全ての救世主である!」


王の賛辞に、列席した貴族たちからも感嘆の声が上がる。誰もが俺を称賛し、その功績を褒め称えた。リリアーナは、父である王の後ろで、心から嬉しそうに微笑んでいる。その笑顔が、俺には何よりの褒美だった。だが、その熱狂の中で、ただ一人、宰相バルドルの冷え切った視線だけが、俺のうなじに突き刺さっていた。


「して、勇者殿」


王が促す。


「戦いの詳細、そして魔王との会談の様子を、皆に聞かせてはくれぬか」


俺は立ち上がり、事の顛末をありのままに話した。俺が如何にして軍を動かし、そして魔王ゼオンが如何なる理由で戦いを起こし、最後には俺の説得に応じて矛を収めたかを。


「……魔王ゼオンは、決して邪悪なだけの存在ではありません。彼は彼の民を想う、一人の王でした。今後は、彼ら魔族と手を取り合い、交易の道を開くことも可能かと」


「交易、ですと?」


それまで沈黙を守っていたバルドルが、初めて口を開いた。その声は、静かだが妙な圧があった。広間の熱気が、その一言で、すっと冷えるのを感じた。


「勇者様は、あの忌まわしき魔族と、商いを行えと仰るのか? 彼らが我らの同胞をどれだけ殺戮したか、お忘れではあるまいな」


「それは……。ですが、彼らも生きるために必死だった。それに、もう戦う意思は……」


「戦う意思がない、と。それは、勇者様が魔王と『友人』になられたから、そう思われるのですかな?」


バルドルの言葉に、広間の空気がわずかに変わった。友人。その単語が、貴族たちの間にさざ波のような動揺を広げる。それまで俺を称賛していた彼らの目に、かすかな疑念の色が浮かび始めた。


「魔王の言葉を、そう易々と信じて良いものか。あるいは、何か我らの知らぬ『契約』が、お二人の間で交わされたのではありますまいな?」


ねっとりとした口調が、俺の功績に、見えない毒を塗りつけていく。俺は、その毒の正体に気づかないまま、ただただ誠実に答えようと努めた。だが、一度撒かれた疑念の種は、人々の心の中で静かに芽吹き始めていた。


ちょっと不穏な空気が・・・


明日も19時に公開します。

どうぞよろしくお願いいたします!

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