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第7話 「酔いどれの夜に」

ある日の夜、俺は飲み会に来ていた。


「よぉ〜し飲むぞぉ〜!」


先輩が大きな声でそういうとみんながお酒を飲み始めた。


正直、好きでもなんでもない会社の人らと飲むのは内心面倒だがこれも仕事の一環なのでしっかりとやり抜く。


飲んでいると飯田さんが俺の近くへとやってくる。


「羽田さん。この間はありがとうございました。」


飯田さんはアクロス出版社の伝票を処分するというミスをしてしまった人だ。


俺はそれを聞き、2人で謝りに行ったところ俺の迅速な対応により社長にお許しをいただけたんだ。


「あの時、羽田さんが一緒に謝ってくれたおかげで本当に助かりました。改めてお礼を言わせてください。」


「飯田さん。大丈夫だよ。実はねあれのおかげで逆に向こうから信頼を得ることができたんだ。俺、仕事で失敗ばっかででもやっと成功できた気がする。君がミスを正直に話してくれたおかげだよ。ありがとう飯田さん。」


それを聞いた飯田さんは頷いた。


それを松本と田中が遠くから見ていた。


この松本と田中は俺が夕礼に遅刻した時にバカにしてきた1個上の先輩たちだ。


その中で田中は口を開く。


「聞いたか?羽田の野郎。飯田のミスを庇って、迅速な対応で逆に信頼を得たらしいぞ。」


それを聞いた松本は嫌味を漏らす。


「あんなのまぐれだ。運が良かっただけ。羽田。調子のんなよな。」


それは俺の耳に入るが俺からは何も言えなかった。


だがそこに上司の佐々木さんが来る。


「君たち。なんの話かな?」


松本と田中は偽物の笑顔を浮かべ、ごまかそうとする。


「いえ。なんでもありません。ちょっとした世間話ですよ。」


しかし佐々木さんの目は誤魔化せなかった。


「羽田君の悪口がちょっとした世間話といえるかな?」


やつらは内心嫌そうな顔をするが佐々木さんを前には逆らえず黙り込む。


「確かに羽田君は仕事に慣れてないかもしれない。でも全力で頑張ってるよ。先輩ならそれを冷笑したり悪口言ったりせずにいいところはいいところって素直に認めたらいいんじゃないの?」


「…すみません」


流石の2人も素直に謝った。


「以後、気をつけるように。」


そういうと佐々木さんは俺の元へやってくる。


「羽田君。久しぶりだね。」


「佐々木さん。お久しぶりです。」


「聞いたよ。飯田さんのミスをしっかり対応したんだってね。君のその力はきっと会社を作る道しるべとなる。期待しているよ。」


そういうと佐々木さんは微笑みながら自分の席へと戻った。


いい人もいるんだなと思った。こういう人もいるからこの世界も捨てたもんじゃないと思えた。


その時、ある男が俺の肩を組ませる。


「羽田ァ。俺上機嫌だぜェ。」


彼は俺の5個上の先輩の赤川という男だ。


見たところかなり酔ってるようだった。


「ハハハ!」


すると急に彼は大爆笑しはじめる。


「あ、赤川さん…どうしました…?」


「お前さ!アレだよ!アレ!波田のギター侍ネタして滑ってたよな!」


なんと赤川は俺のギター侍で滑ったことをバカにしてきたんだ。


「そ、そうですけど…」


「正直、聞いてたけどあれはおもんなかったわ!なんやねんあれ!逆にすごいわ!」


俺はあれはわざとスベったわけじゃないのに…ムカつくけど先輩だから怒れない。


奥を見ると松本と田中がクスクスと笑いながらこっちを見ている。最悪の展開だ。


「殴りたいなら殴れよ!」


その瞬間、胸の奥で何かが切れた気がした。今まで馬鹿にされ続けてきた悔しさが一気に込み上げた。


「わかりました。」


そういうと俺は拳を握りしめ、渾身の右ストレートを放つ。


それはもろにやつを捉えた。


辺りが一気に静まる。それと同時に俺は事態の深刻さを理解する。


でも殴れと言ったのはあいつだし俺は悪くないと思う。


「すみません。」


一応、おれはそう謝ると再び席についた。


それからは少し気まずい空気はあったが無事飲み会は終わった。


次の日、会社に来ると赤川が俺の元へとやってきた。


「羽田。」


俺はやばいと思った。昨日殴ってしまったことを怒られると思ったからだ。


「は、はい。なんでしょうか?」


恐る恐るそう答えると赤川は頭を下げていた。


「羽田…ほんまにすまん。俺、自分が下の立場やったとき同じことされて辛かったんや。それを酒で忘れて、同じことしてもうた。」


まあ本当に殴ったのは流石にライン越えだったし、赤川の方も挑発しすぎだった。


「い、いいですよ。」


弱さに負けて誰かを傷つけるより、不器用でも人のために動ける人間でありたい。そう思った。

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