第六話 「雨降って地固まる」
ある日の朝礼で上司からこう言われていた。
「今年からこの会社に入る新入社員の飯田さんです。みんな仲良くしてね。」
俺もこの会社でそろそろ3年目。後輩が入ってくる時期だ。
「じゃあ本田君の部署に入ることになるから羽田君が仕事教えてあげてね。」
その上司の言葉に対し、俺は「はい」とはっきり答えた。
「羽田さん。よろしくお願いします。」
飯田さんは見たところとても優しそうな人でとりあえず安心した。
「よろしくね。俺、羽田雄資。これから仕事教えるからね。」
それから俺は飯田さんへこの会社での仕事を教えていった。
3ヶ月が経ち、飯田さんも仕事に慣れ始めていた。
俺もそれに安心し、いつもどおり仕事に励んでいた。
だがその時、後ろから飯田さんの声がかかる。
「あの…羽田さん」
その声の震えに俺は嫌な予感に鳥肌がたった。
恐る恐る俺は飯田さんへ聞く。
「飯田さん。どうしたのかな?」
飯田さんは今にも泣きそうな声で俺に訴えかけてきた。
「私、羽田さんの担当先のアクロス出版さんの伝票を間違えて処理してしまい、激怒させてしまいました。本当に申し訳ありません。」
それを聞いた俺は一瞬、理解が追いつかなかった。
アクロス出版社とは俺たちと契約している出版社だ。
彼らの力は大いに一ノ瀬銀行の役に立っており、とても大切な会社の一つだ。
その会社の伝票を処分してしまった。これは大問題である。
「えっ、えっと…それは…」
俺はそうつぶやき、時間差でそれを理解するとなんてことをしてくれたんだと思う。
一瞬、怒りそうになる。でも俺がされてきたことを思い出す。
「支店長!羽田クビにしましょう!」
「羽田お前ホントつかえねぇなぁ。だから将星大学はダメなんだよ。」
俺は学歴差別を受け、それ以外にも様々なハラスメントを受けてきた。
だから俺は飯田さんに同じ思いをしてほしくない。
俺は甘すぎるのかもしれない。だって飯田さんはミスをしたし、俺に怒られて当然である。
でももう飯田さんはすでに本田に怒られてる。だからもう十分罰を受けてる。俺が追い打ちをする必要はない。俺はそう思い、飯田さんへ言う。
「わかった。とりあえず謝りに行こうね。」
俺は優しくそういうと飯田さんは驚いた顔をして「えっ、」と声を漏らす。
俺も怒られきたからわかる。きっと怒られると思って話しかけてきたんだろう。
「すみません…羽田さん…ありがとうございます。」
飯田さんが泣きながらそういうと俺たちは自転車で急いでアクロス出版社へと向かった。
「失礼します。」
俺はそういいながら社長室の扉のドアノブを掴んだ。
心臓が早く鼓動を鳴らす、手が震える。
後輩のまえで情けないが、やはり怖いものは怖い。
だが先輩の俺がここで怖気づいてはいけない。先輩が後輩のミスをカバーするのは当然のことだ。俺はそう思い、ドアを思いっきり開けた。
「二人とも。急にどうしたの?」
そういうのはアクロス出版社の高橋社長だ。
俺は起こったことを正直に答えた。
「実は…」
すると社長は驚き、言った。
「えっ!?伝票処分しちゃったの!?なんでよ!?だめでしょ!」
俺は飯田さんと2人で頭を下げる。
「すみませんでした。」
だが社長は腕を組み、言う。
「でも今回は羽田君のせいじゃないしね。飯田さんだって新人なわけだし仕方ない。以後、気をつけるように。」
許しをいただいた俺はただただ感謝した。
「すみません社長。ありがとうございます。」
そして俺たちは帰ろうとした。その時、社長が言う。
「そういえば、私は今別荘を買う予定なのだが、セカンドハウスローンはおたくの銀行で借りれるか?」
俺はよろこび、「はい」と返事をする。
そしてすぐに稟議を書いて行内決裁を取り付ける。
「スピーディーにありがとう」
社長はそう喜んだ。
そして社長は俺に言った。
「羽田君。君は部下の失敗をしっかりとカバーし、別荘の対応もすぐしてくれた。これからも期待しているよ。」
それを聞いた俺はその言葉を一瞬理解できなかった。
思い返せば俺は否定ばかりされて生きてきた。
「アンタに上京なんて無理や!」
上京しようとしたときは両親に無理だと言われた。
「将星大学とか使えねぇなぁ」
入社してからその言葉を何回聞いたろうか。俺は差別されつづけてきたんだ。
だが今、その俺の力が認められている。
「ありがとう…ございます」
俺は死ぬほどうれしかった。やっと俺が上司に認められた。初めてこの会社に入ってよかったと思えた。
今回の件、確かに飯田さんのミスは全体に影響してしまう。でも俺が迅速な対応をしたことで社長から認められることができ、逆に信頼を得ることができた。これこそ、雨降って地固まるである。
帰り道、飯田さんは俺に言う。
「羽田さん…今回は本当にありがとうございます。もう…なんといっていいか…頭が上がりません。」
「飯田さん。大丈夫だよ。これからもこの背中。いつでもたよって。」
俺は自信満々にそういうと飯田さんは涙を拭きながら「はい」と答えた。
これがきっかけで俺は営業のエースへと上り詰めるのである…。
ついに逆襲の第一歩踏まれる。




