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第3話 「残念の向こう側」

ある日の仕事中、後ろから上司の声がかかった。


「羽田。お前、今度の商談一発芸しろ。」


「あっ、はい」


 この時代。新人はみんなやることだった。


 断ることはできない。内心すごく嫌だったが、俺は引き受けることにした。


 それから俺はなんの一発芸をするべきなのか調べてみた。


 キーボードを打ち、検索をかけるとたくさんの仕事での一発芸に関するサイトが現れる。


 「えっと…どれにしようかな…」


 たくさんの情報を漁る中、俺の目に1つの案が入る。


 それは芸人のネタを使うという方法だ。


「なるほど…たしかに既に世間から認められている芸人のネタをオマージュすれば笑ってもらえるかもしれない!」


 そう思った俺は片っ端からいいネタを調べた。


 そして見つけたのは波田陽区の「ギター侍」というネタだ。


 波田陽区の「ギター侍」ネタは、「って言うじゃない」と相手にツッコんだ後、「〇〇斬り!」で〆、「残念!!」とオチをつけるものだ。


「これは…俺が大学生くらいにすごく流行ってたやつだ!」


 俺の世代ではとても有名なネタで大学生の頃、クラスメイトが教室中に響く声で言っていたのを覚えている。


「やってみるか」


 俺は再度、そのネタを見ると何度も練習し、本番へ備えた。


 そして本番の日がやってくる。


 上司はマイクを持ち、壇上へ上がっていた。


「はいではうちの会社から羽田雄資君が一発芸をしてくれるそうです。どうぞ!」


 俺はギターを片手にゆっくりと壇上へ上がった。


 緊張する。心臓がより早く鼓動を鳴らす。


 だが俺はこの日のために練習してきたんだ…いける…。そう思った俺は覚悟を決め、第一声を放った。


「俺の仕事ぶり、真面目すぎるって言うじゃないかい?」


 俺はみんなが親しみやすく、共感しやすいように会社に関するネタを使った。


「でも本当は“要領悪いだけ”なのよ!

残念っ!!」


 そして俺はこう言い放った。


 だが言った瞬間、部屋中が沈黙で満たされる。


 そう"誰一人"笑ってなかったんだ。


 よく考えればそうだ。普段まじめな俺がいきなりこんなふざけ方をしたら沈黙するに決まってる。


「えっ…えっと…」


 なにも言えず立っている俺に上司が耳打ちする。


「羽田!とりあえず戻れ!」


 俺が戻ると上司がまた壇上へ上がる。


「というわけで商談始めていこうと思います。」


 このあと、上司がカバーし締めくくった。


 俺はあれから1週間くらい夜になると心臓の音がうるさくて眠れなかった。恥ずかしさと情けなさが込み上げてきて、毎日涙が止まらなかった。


 そして俺は誓った次の世代には絶対にこんな思いをさせたくないと。

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