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死後の審判  作者: 真冬
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第五章 僕は今、前世最弱から学級王に転生した

そんなこんなしているうちに、俺は幼稚園に入園していた。

……正直、楽勝だった。

前世では会議で沈黙し、雑談の輪に入れず、敬語ひとつで胃が痛んでいた俺が、今ではクラスのヒーローである。

というのも、泣き声が“かわいい”で済まされ、絵本の読み聞かせタイムでは誰よりもリアクションが豊か(演技力:前世補正)、昼寝のときは寝相が天使すぎて保育士に写真を撮られる始末。

「遠矢くんは天才ですねえ〜」という先生のコメントに、俺の中の三沢が「社会人のときに言われたかったそのひと言……!」と膝をついて泣いていた。

小学校に上がると、転生ボーナスはさらに覚醒した。

九九は1年生の夏休み前には完全制覇。しかも独学。

おまけに音読カードのコメント欄に「この部分の情景描写が印象的でした」と書いただけで、先生の目が二度見になった。

図工では「構図が深いね」「この空間の取り方はどうやって考えたの?」と賞状をもらい、

読書感想文にいたっては、1年生にして“校内で唯一段落構成が整っている”と注目され、なぜか低学年の部の校内賞を受賞した。

……前世では“月報の出力すらExcelで崩壊させる”ことに定評のあったただの事務員だった俺が、

今では“放課後に担任に読書傾向を分析される少年”である。

人間、いつどこでスペックが開花するかわからんもんだ。

とはいえ、ただの優等生では終わらない。

クラスの男子と缶蹴りで鬼ごっこをしたとき、みんなが走り回るなか、

俺だけ走らずに“物陰に潜んで缶をガン見”してた。

機を見て一撃で缶を狙うつもりだったのだが――

「……執念がすごいな」

先生が、鬼ごっこの途中でつぶやいていた。

その視線は、どこか“安全に遊ばせられる児童か否か”の査定に入っていた気がする。

すまん、これが前世で社会の裏を潜り抜けてきた男の、リスク回避型戦略思考というやつなんだ。

缶蹴りにすらサバイバルの香りを漂わせてしまう、それが俺。

一方で、図書室で静かに読んでいただけなのに、「本の並べ方が効率的」と言われて図書委員長に推薦されそうになったのは誤算だった。

いや、俺の本棚のアルゴリズムは“心理ジャンルの導線に合わせた類似脈絡法”であって、それは……まあ、説明しても無駄か。

中学に入ってからは、さすがに“転生のアドバンテージ”だけでは通用しなくなってきた。

学力でも体力でも、周りの奴らがぐんぐん伸び始めてくる。これが成長期というやつか。人生2周目とはいえ、肉体の年齢は正直だ。僕がいくら前世でExcelを操っていようと、体育で50mを8秒台で走れるようにはならない。

そんな中、最初にぶち当たったのが中間テストだった。

前世の知識があるし、漢字テストとか社会の地名とか楽勝だろうと思っていた。だが問題文を読んだ瞬間、想定外の刺客が登場した。

《次の短歌の作者の心情を現代風に言い換えなさい》

現代風……現代風とは……?Twitter投稿風?ラップ風?誰か“作者の意図bot”出して。

必死で書いた。「やばい、めっちゃ切ない。恋つらすぎ無理」

──満点だった。現代の国語教師、なかなか懐が深い。

そして文化祭。

クラスで劇をやることになり、僕は「脚本書いてみない?」と頼まれた。

“見過ごされがちな日常の中にちょっとした奇跡がある”というテーマで構成したら、なぜか先生が泣いた。「遠矢、キミ……今どきの子とは思えない感性してるな」と言われた。いや先生、それは人生2周目の感性です。

演劇本番、照明が消えなかったりカーテンが途中で詰まったり、セリフを忘れて棒立ちになった男子がいたりして、ハプニング満載だった。でもそれが妙にリアルで、むしろ観客は盛り上がってくれて、最後は拍手喝采。

「失敗も物語になるって、すごくない?」

クラスメイトがポツリと漏らしたその言葉が、妙に胸に残った。

体育祭ではリレーに出場。特に目立った活躍はしていない。むしろバトンを渡す時つまずいて、前の走者の足に軽く引っかかってしまい、ひどく焦った。けれど「大丈夫!こけなかったし、ナイストライだよ!」って、チームの女子が笑顔で言ってくれた。

前世の職場では、ミスをしたら無言でため息をつかれていた。

“こんなふうに誰かに許される”というのが、実は一番のご褒美だったのかもしれない。

今、僕は学級新聞の制作係をしている。

誰も気に留めないような会話、昼休みの風景、消しゴムが転がる音。

それらに小さな物語を見出して、紙面に綴っていく。

前世では、誰にも届かなかった心の声を。今度は、誰かにちゃんと届けたい。

たかが中学生活。けれど僕にとっては、再スタートのすべてが、宝物になっていく。


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