ミルフィと数学
僕の部屋に足音が近づく代わりに、カーペットを滑るような「するする…」という音がした。
ドアを開けると、そこにいたのは長い蛇の尾を持つメイド――ミルフィだ。
「ご主人さま、今日の数学のお時間です」
長い尾を器用にまとめながら、優雅にお辞儀をしてくる。
机の上にはノートと教科書。今日は二次関数のグラフの勉強だ。
正直に言えば、僕はあまり得意ではない。けれど、ミルフィが一緒だと不思議とやる気が出る。
「ご主人さま、この式を因数分解してみてください」
「えっと……x²+5x+6、だから……」
「ふふ、焦らなくても大丈夫です。x+2とx+3ですね」
彼女は柔らかな笑みを浮かべながら、すらすらとチョークを黒板に走らせる。
尾が床を滑り、ノートを僕の前にそっと押し出してきた。
「さぁ、今度はご主人さまの番ですよ」
僕はペンを握り、答えを書き込む。書き終えた瞬間、
「よくできました」と、彼女は尾で僕の椅子を軽くくるんと回転させて褒めてくれた。
「ご褒美です。紅茶と……少し甘いクッキーを用意しました」
彼女は尾の先で器用にティーセットを運び、僕の前に置く。
まるで数学の勉強そのものが、穏やかなティータイムの一部であるかのようだった。
勉強が終わると、僕は気が抜けたように椅子にもたれる。
するとミルフィは僕のそばにすり寄り、尾でそっと肩を支えてくれる。
「数学は難しいですが、ご主人さまと一緒に進めると楽しいですね」
「僕も……ミルフィとだから続けられるんだと思う」
窓の外には夕焼け。
今日もまた、ラミアのメイドと僕の静かな日常が過ぎていく。