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鋼と魔の狭間で

 時が過ぎ、ルークたちは十八の年を迎えていた。


 丘で剣を振るっていた三人の少年たちは、今や村でも名を知られた若き剣士としてその名を馳せている。盗賊討伐の英雄、そして新世代傭兵団の中心。


 彼らが生まれ育った村は、近隣でも稀な鉱山を抱えており、鉄と銅、希少な鍛錬用鉱石“黒銀”を産出することで知られていた。


 村は、採掘された鉱石を用いて武器・防具を生産し、それを周辺の村々へ供給する。優れた剣士を育て、派遣する“戦と鍛冶の村”として、独自の文化と経済を築いていた。


 ルークたち三人は、村の傭兵団ヴァルド・ファングの主軸を担っていた。仕事の依頼は、護衛、山賊掃討、村の巡回と多岐にわたり、報酬と経験を重ねて実績を積み上げていた。


 特にベックは、持ち前の体格と腕力を活かして村の鍛冶場で鍛錬の手伝いも行っており、彼の振るう“黒銀槌”は職人たちからも一目置かれていた。


 「剣の重みは、鍛えるところから知るもんだな」


 とベックはよく言った。


 ある日、東の村から急報が届く。


 「“術を使う山賊”が現れた。剣士の部隊が何人か倒されたが、傷の様子が通常の斬撃ではない。……どうか、力を貸してほしい」


 ルークたちは、すぐに出発の準備を整えた。


 魔法――それは彼らにとってその存在は知識では持っていたものの、実際に目にしたことはなかった。


 現地で対峙したのは、ただの山賊ではなかった。外套を纏った一人の男が、奇妙な詠唱を口にした瞬間、空気が歪み、雷鳴のような音が空から轟いた。


 次の瞬間――村の門が爆ぜ、火花が舞った。


 「魔法だ!」


 ケリーが叫んだ。


 ベックが剣を構える。


 「クソッ、剣が届く距離にいねぇ!」


 ルークは冷静に男の動きを観察する。詠唱には時間がかかっている。構え、呼吸、視線。そこに“隙”がある。


 「詠唱の最中は、無防備だ。……“早さ”で潰せる!」


 ルークは駆け出した。魔法が完成する寸前、彼は地を蹴り、男の横腹にベックが鍛えた剣を叩き込む。詠唱が途切れ、術が霧散する。


 「間に合った……!」


 「魔法にも、時間と動作がある。斬れぬなら、止めればいい」


 ケリーが素早く後ろから拘束し、ベックが男の足を払い、三人で制圧した。


 戦の後、彼らは静かに焚き火を囲んだ。


 「魔法って、もっと不可解で、止められないもんかと思ってた」


 とケリー。


 「止められるさ。……読めれば」


 とルークは言った。


 「けど、今のはたまたまだ。術者が三人いたら止められてなかった。もっと“間合いの外”で来たら、やられてた」


 ベックが静かに言う。


 その夜、三人は一つの結論に至る。


 「魔法に打ち勝つためには、“速さと連携”が鍵になる」


 詠唱の隙を突き、術者の視線を奪い、動きを封じる戦術。


 それが剣士として魔に抗う、彼らの答えだった。


 数日後。ルークは黒犬――ラグスの前で報告していた。


 「……魔法と剣、どちらが上か。まだ、答えは出ません」


 黒犬は小さく鼻を鳴らした。


 「上も下もない。“違い”があるだけだ。だが、“剣”は目に見える。“魔”は心に触れる。――触れられる前に斬ることだ」


 「……はい」


 ラグスは草の中に身を伏せ、目を閉じた。


 そしてぽつりと呟いた。


 「魔を斬る剣。……それもまた、“正しさ”と“狂気”の境目にある刃だ」


 その言葉の意味を、ルークが理解するのはもう少し先の話となる――

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