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第一話「消えた教室」

「よし、ここにサインすれば正式な部員だ」


そう言ってニヤリと笑ったのは、オカルト研究会の会長、白井紗月先輩。彼女は眼鏡の奥から鋭い視線を送り、僕に入部届を差し出した。僕、篠原純平は、なんとなく断りづらくて書類に名前を記入してしまった。興味があったのは確かだけど、まさか本当に入部することになるなんて思ってもいなかった。


「よろしくな、篠原」


隣で静かに笑ったのは、同じクラスの佐藤直樹。物静かな彼がオカルト研究会に入っていたことを初めて知った時は驚いたが、少し安心した。少なくとも、知り合いがもう一人いる。


「さて、部員が揃ったところで、早速だが…」

白井先輩は部室の隅にあった古びたファイルを取り出し、僕たちの前に広げた。「これが私たちの学校にまつわる怪談を集めた記録よ」


ファイルは埃まみれで、ページの端が破れていた。そこには何年も前の手書きのメモや、古い新聞の切り抜きがびっしりと貼り付けられている。タイトルは「桜ヶ丘中学校の七不思議」。見るからに怪しげな響きだ。


「この学校には昔から、解明されていない怪談がいくつもある。その中でも有名なのが『消えた教室』の話だ」


「消えた教室?」


僕は思わず聞き返した。そんな話、聞いたこともなかった。


「そう。20年ほど前に、桜ヶ丘中学校で『消えた教室』という噂が流れたんだ。ある日突然、特定の教室が消える。その教室に入った生徒は、二度と帰ってこないと言われている」


「都市伝説みたいだな…」


直樹が低くつぶやいた。


「その教室がどこにあるのかは、誰も知らない。今もどこかに存在していて、特定の条件が揃うと現れると言われている。私たちのオカルト研究会では、この謎を解き明かすのが目標なの」


紗月先輩の真剣な目が、僕と直樹を見据えている。


「ま、まあ、面白そうですね…」

僕は無理やり笑って返事をしたが、内心は少し怖くなっていた。消えた教室だなんて、いかにもあり得ない話だ。だけど、先輩の熱意に押されて引き下がれなかった。


「それじゃあ、まずは校内をくまなく調べてみよう。怪しい場所がないか、手がかりを探すんだ」

紗月先輩が立ち上がり、僕たちを促した。


こうして僕たちは、桜ヶ丘中学校に伝わる「消えた教室」の謎を解き明かすための調査を始めることになった。



---


翌日、放課後。


僕と直樹は紗月先輩に連れられて校内を歩き回った。普通に考えて、教室が突然消えるなんてことはあり得ない。でも、実際に消えたと言われる教室がどこかにあるなら、何らかの手がかりが残っているかもしれない。


「何か不自然な場所や、普段使われていない教室はないか…」


僕たちは慎重に校舎を見て回った。だが、特に変わったことは何も見つからない。


「やっぱりただの噂だったのかな…」

直樹が肩をすくめる。


「まだわからないわ。校舎の隅々まで調べないと」

紗月先輩はあくまで真剣だった。


その時、ふと彼女が校庭の隅に目を留めた。


「ねえ、あそこ。旧校舎があるわね」


旧校舎――それは、今ではほとんど使われていない古い校舎だった。体育倉庫として一部が使われているらしいが、普段は誰も近づかない。ひび割れた壁や草に覆われた窓からして、もう長い間放置されているようだった。


「もしかして、消えた教室はあそこにあるのかも」


紗月先輩の言葉に、僕たちは顔を見合わせた。古い校舎に不思議な教室があるなんて、聞いただけでぞくっとする話だ。だけど、これがオカルト研究会の活動だ。怖くても、僕たちは進むしかない。


「行ってみよう」



---


旧校舎の中は、思った通り薄暗く、埃っぽい匂いが充満していた。廊下の床はギシギシと音を立て、いつ崩れてもおかしくない状態だ。


「ここ、ちょっとやばいかもな…」

直樹が不安げに言ったが、紗月先輩はまるで気にしていない様子で奥へと進んでいく。


「消えた教室が本当にあるなら、この中よ」


僕と直樹は、仕方なくその後を追った。廊下の先にはいくつかの古い教室が並んでいるが、どの扉も鍵がかかっていた。だが、一つだけ、錆びついたドアノブが少し緩んでいるものがあった。


「ここだ」

紗月先輩がドアノブを回すと、重々しい音とともに扉が開いた。僕たちは緊張しながら中に入った。


中は薄暗い教室だった。机や椅子は散乱し、壁には古い落書きが残っている。窓の外は夕焼けで赤く染まっていたが、教室の中は異様に静かで、まるで別世界に迷い込んだかのような感覚に包まれる。


「ここが消えた教室…なのか?」

僕は声を潜めながら言った。


その瞬間、何かが変わった。外の景色が突然、真っ暗に変わったのだ。


「な、何だこれ…?」


僕たちは恐怖で凍りついた。窓の外は闇に包まれ、まるで時間が止まったかのように静まり返っていた。僕たちの心臓の鼓動だけが、部屋の中に響いていた。


「この場所は…」

紗月先輩が何かに気づいたように窓の外を見つめる。「ここが消えた教室の正体かもしれない」


僕たちは言葉を失って、その場に立ち尽くした。闇の中から何かがじっとこちらを見つめているような、そんな気配がしたのだ。






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