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RGB:僕と浮世離れの戯画絵筆 ~緑色のアウトサイダー・アート~  作者: 雪染衛門
第三章 ろくでなしのロク

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21. 問題なのは、“緑色”

緑光(ろくみつ)は、(ひたい)を隠すためにわざと伸ばしたボサボサの髪を、照れくさそうに搔く。


「あ、ありがとう。……し、東雲(しののめ)さん」


言いそびれていたタブレットのお礼を、少しぎこちなく絞り出した。


東雲は、そんな彼の初心(うぶ)な想いを受け取ると、ふっと視線を伏せる。

やがて、ゆっくりと口を開いた。


「それに織部(おりべ)くんはさ」


見つめる先の者にしか判らないほどの刹那――

透き通るほどに優しく、哀しげな表情を浮かべた。


緑光の胸はひどく締めつけられる。

異性を前にした過剰な恥じらいも、一瞬忘れてしまうほどに。


「実は絵、めっちゃ上手いじゃん? マジでビビるくらいに!」


「い、いやいやいや、そそそそんなことないよ! 僕なんかぜんぜん……。

世の中には、もっともっと上手い人がいっぱいいるし……」


東雲は、緑光の慌てふためく様子に、ふっと笑った。

そして、どこか楽しそうに首をかしげる。


「てか、なんでいまは描いてないの? ガチでもったいなくない!?

フツーに続けたほうがいいって!」


さっきの哀しげな表情はなんだったのか。

緑光は心に引っ掛かりを覚えたが、東雲はすでにいつもの明るい笑顔。

間髪入れずに持ち上げられ、たじたじになる。

思考する隙は、一切なかった。


「マジでなれるっしょ! 織部(おりべ)くん、浮夜絵師(うきよえし)!!」


()()()()


東雲の情熱的な明るい声に、緑光とクラス全員の声がハモった。


「な、なななんで!? ぼ、僕そんなこと……一度だって……誰にも……!」


緑光は動揺し、言いかけたところでハッとする。

思わずこぼれ出そうになった言葉を、両手で慌てて塞いだ。


「なりたいんじゃないの?」


ずっと胸の奥に秘め、表に出すことすらなかった幼い頃の希望。


()()()()()()()()()()


隠しておきたかった。

でも、東雲を前にして、それを押し通すことはできなかった。


「……ちょっと、前までは……ね。でも僕は、()()()()()じゃ、ないし……」


東雲から目を逸らしながら答える緑光の声は、

どんどん自信なさげに小さくなっていく。


代わりに大きくなるのは、クラス中に響く嘲笑。

その音が、緑光のか細い声をかき消していく。


()()ごときのお前が、よりによって浮夜絵師とか。

まさかそんなこと考えてたなんてな!」


()()()()()()()の三拍子揃った、一生AIチャットに質問してそうな陰キャが、浮夜絵師になれるわけねーだろ」


(僕の話し相手がAIチャットしかいないと思われてるの、心外だな――)


緑光は、軽いショックを胸に仕舞い込みながら、後世のために反論しようとしたのだが。


「め、眼鏡は関係ない、かと……。あとオタクも……」


「は? お前、()()のくせに、いいご身分だよなあ!!」


鳩尾(みぞおち)の痛みで苛立っていた桃山(ももやま)の怒鳴り声が、緑光の言葉を一掃する。


ナンセンスな眼鏡をかけていることや、オタク気質であることは、

夢を追うことになんら影響はない。


問題なのは、“緑色”であることだ――




魂の色(ソウルカラー)が可視化されて以降、

人々の適性はより明確に分類され、それに応じた社会の仕組みが定着した。


それぞれの色には、持って生まれた個性があり――


例えば、()()は情熱的で正義感が強く、身体能力に優れる者が多いことから、

公務員やスポーツ選手が目立つ。


()()は明るくユーモアにあふれ、手先が器用なため、

芸人やクリエイターとして活躍する者が多い。


そして、冷静沈着(れいせいちんちゃく)、忠実で頭脳明晰(ずのうめいせき)なため、オールマイティにこなせる()()

どの分野にも適応しやすく、幅広い職業で活躍できる色だ。

医療関係者から国家の要職まで、あらゆる業界で引く手数多(あまた)である。


もちろん、魂の色(ソウルカラー)の適性と異なる道を選ぶ者もいる。


赤色でありながら芸人を目指す、あるいは黄色でも政治家を志す、など。


しかし、そんな例はほんの一握りであり、結局のところ――

適性には抗えず、最もふさわしい道へと落ち着いていく。


(こうして、人は社会に染まっていく……)


職業の適性だけではない。


魂の色(ソウルカラー)は、恋愛や人間関係の相性にまで影響を及ぼし、

占い師を廃業に追い込むほどの説得力を持つようになった。


そのおかげで、互いに最適なパートナーや職場を選び、

無駄な衝突や失敗を未然に防ぐことができる。


色の相性診断は、結婚相談所や企業のマッチングにも導入され、

「最高の相性を持つ組み合わせ」を科学的に保証するものとして信頼を得ている。


一見、支配的にも見えるが、魂の色(ソウルカラー)が可視化される以前から、

人は無意識に“適性色(てきせいしょく)”に沿った道を選んでいた。


それを証明したのは、過去の偉人たちの魂を解析し、適性との一致を裏付けた最新のスキャン技術。

だからこそ、魂の色(ソウルカラー)に基づく社会制度は、合理的なものとして受け入れられている。


この世界は、“平和と公正の色相環”の名の下、

誰もが()()()()()と信じていた。


(……でも、その洗練されたビジュアライズこそが、とある課題も顕在化させていた)


――“緑色”の魂の色(ソウルカラー)を持つ人間の犯罪率が、()()()()()高いことである。


それゆえに、“緑色”の存在は、色相差別カラータイプハラスメント

略して“イロハラ”を生み出す温床になった。


とりわけ、素直で無邪気な子どもたちの世界では、()()()()()()がより露骨になる――

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