17. 魂の色
「夕べの浮夜絵見た?
もう宗教画だよ~。バチクソ尊い~」
「あんなエモい神絵を秒で描けるとか、青色の人ってやっぱガチ。まごうことなきハイスぺだわ」
昨夜、SNSでバズった青ウサギの浮夜絵師動画は、都会も田舎も関係なく一斉に話題になる。
今朝のニュースも、天気予報以外は記憶に残らないくらい、その話題一色だった。
東京から約百キロ離れた僕の中学でも、当然のように盛り上がる。
こんな光景も、よくある日常だ。
「頭イイし、超クールだし。
私も青色男子と付き合ってみたい!」
「はい草。赤色のあんたじゃつり合わなさそ……」
クラスの女子たちは、青ウサギの浮夜絵師の話題から、いつの間にか恋バナにシフトする。
そんなやりとりも、僕にとってはよくある日常だ。
――人の魂には、色がある。
ある時、アメリカで発表された論文をきっかけに、世界は大きく変わった。
その研究は『神を科学し、容姿を可視化する』という
(普通の人にはちょっと意味がわからない)テーマを掲げた物理学者によるものだった。
仏教用語『五蘊』の“色”に着目したことで、
魂の可視化に成功する(……なるほど、わからん)。
それまで精神的な概念とされていた魂は、物質として証明された。
さらに、人間の免疫遺伝子のように多様なバリエーションがあり、識別の特徴として、それぞれ異なる色を持つことも判明する。
色は、大きく分けて『赤・青・黄・緑・橙・紫』の六種類。
そして、この研究が世界を変えたのは、その先にあった。
『魂の色』と名付けられた六種類の色相には、それぞれ固有の潜在能力があるとされ、科学的な分析によって個性や適性が明確化された。
これにより、人は生まれ持った特性を最大限に活かし、個々の資質に応じた理想的な未来が、正確に提示されるようになる。
そもそも、人類は歴史のはじまりから、身の回りのあらゆる色に影響を受けながら生きてきた。
いわずもがな、現在も意識・無意識の両面で、色が人の感情を左右し、共存している。
だから、もし突然「あなたの魂の色は赤色です」と言われても、驚く人は少なかった。
むしろ、科学の力がなくても、人は無意識のうちに好きな色を選び、身につけて安心する色に囲まれて暮らしてきたのだから。
そのため、診断結果にも納得しやすく、それが自己肯定感を高める要因にもなっている。
もちろん、反発の声もあった。
魂の可視化は未来を決めつける行為に等しく、人間の尊厳や自由を奪う危険性があると主張する者もいた。
しかし、不確かな未来に漠然とした不安を抱えながら生きるよりも、確実に適職がわかるほうが楽だと考える人が大半だった。
こうして『魂の色』は履歴書代わりにすらなり、人々はあっさりと受け入れた。
事実、この可視化技術は各分野の発展を促し、教育や雇用、社会制度に影響を与え、失業問題の改善にもつながっている。
やがて、この色とりどりの美しい秩序は“平和と公正の色相環”と称され、世界の基盤として定着し、人々に広く受け入れられた。
いまでは魂の色が、血液型と同じくらい浸透し、十二星座占いよりも心の拠り所になっている。
そして、僕――織部緑光は、そんな時代に生まれた。




