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RGB:僕と浮世離れの戯画絵筆 ~緑色のアウトサイダー・アート~  作者: 雪染衛門
第三章 ろくでなしのロク

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17. 魂の色

「夕べの浮夜絵(てんし)見た?

もう宗教画だよ~。バチクソ尊い~」


「あんなエモい神絵を秒で描けるとか、()()の人ってやっぱガチ。まごうことなきハイスぺだわ」


昨夜、SNSでバズった青ウサギの浮夜絵師(うきよえし)動画は、都会も田舎も関係なく一斉に話題になる。

今朝のニュースも、天気予報以外は記憶に残らないくらい、その話題一色だった。


東京から約百キロ離れた僕の中学でも、当然のように盛り上がる。

こんな光景も、よくある日常だ。


「頭イイし、超クールだし。

私も()()男子と付き合ってみたい!」


「はい草。()()のあんたじゃつり合わなさそ……」


クラスの女子たちは、青ウサギの浮夜絵師の話題から、いつの間にか恋バナにシフトする。

そんなやりとりも、僕にとってはよくある日常だ。




――人の魂には、色がある。


ある時、アメリカで発表された論文をきっかけに、世界は大きく変わった。

その研究は『神を科学し、容姿を可視化する』という

(普通の人にはちょっと意味がわからない)テーマを掲げた物理学者によるものだった。


仏教用語『五蘊(ごうん)』の“(しき)”に着目したことで、

魂の可視化に成功する(……なるほど、わからん)。

それまで精神的な概念とされていた魂は、物質として証明された。


さらに、人間の免疫遺伝子のように多様なバリエーションがあり、識別の特徴として、それぞれ異なる色を持つことも判明する。

色は、大きく分けて『赤・青・黄・緑・(だいだい)・紫』の六種類。


そして、この研究が世界を変えたのは、その先にあった。


魂の色(ソウルカラー)』と名付けられた六種類の色相には、それぞれ固有の潜在能力(ポテンシャル)があるとされ、科学的な分析によって個性や適性が明確化された。

これにより、人は生まれ持った特性を最大限に活かし、個々の資質に応じた理想的な未来が、正確に提示されるようになる。


そもそも、人類は歴史のはじまりから、身の回りのあらゆる色に影響を受けながら生きてきた。

いわずもがな、現在も意識・無意識の両面で、色が人の感情を左右し、共存している。


だから、もし突然「あなたの魂の色(ソウルカラー)()()です」と言われても、驚く人は少なかった。

むしろ、科学の力がなくても、人は無意識のうちに好きな色を選び、身につけて安心する色に囲まれて暮らしてきたのだから。


そのため、診断結果にも納得しやすく、それが自己肯定感を高める要因にもなっている。


もちろん、反発の声もあった。

魂の可視化は未来を決めつける行為に等しく、人間の尊厳や自由を奪う危険性があると主張する者もいた。


しかし、不確かな未来に漠然とした不安を抱えながら生きるよりも、確実に適職がわかるほうが楽だと考える人が大半だった。

こうして『魂の色(ソウルカラー)』は履歴書代わりにすらなり、人々はあっさりと受け入れた。


事実、この可視化技術は各分野の発展を促し、教育や雇用、社会制度に影響を与え、失業問題の改善にもつながっている。


やがて、この色とりどりの美しい秩序は“平和と公正の色相環”と称され、世界の基盤として定着し、人々に広く受け入れられた。


いまでは魂の色(ソウルカラー)が、血液型と同じくらい浸透し、十二星座占いよりも心の拠り所になっている。




そして、僕――織部(おりべ)緑光(ろくみつ)は、そんな時代に生まれた。

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