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舐める怪異
「君さ、顔面の局所舐め回す妖怪とか怪異って聞いたことある?」
そう宣う先輩の顔面、目元にかかる黒髪の向こうからは白い眼帯が覗いている。
「……何か出たんですか?」
「いや、実際に見たとかじゃなく夢枕で……眼球舐られるって悪夢を見たんだよね。片目の瞼を無理矢理抉じ開けられて、ナメクジみたいなものがでろでろっと視界覆い尽くして、起きたらこれ。お岩さん」
先輩は眼帯の奥に隠れた患部を指差し、軽くため息を吐く。
「ものもらいって言ってましたよね。痛みで変な夢見たとかでは?」
「そうかなって僕も考えたのだけれど、ちょっと解せない点があってね」
「と言うと?」
「夢の中で舐められてたのって右目だったんだよね」
俺の反応を伺うように、先輩の右の目が俺の方へと向けられる。視線から投げかけられる期待に応えられる回答を口にできないまま、俺たちは黙って歩き続けた。