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落とし物

「子供の靴ってたまに片っぽ落ちてるじゃないですか。ああいうのって片方だけっていうシチェーションが何となく不思議な気もしますけれど、理由は分からなくもないじゃないですか」

「うん」

「でも、これは流石に……何故?」

「うん……」

 俺と先輩の目の前、住宅街に伸びた道のど真ん中で高下駄が片方コロンと転がっていた。当然サイズは大人用で、よく見ると履き込まれて歯もかなり擦り減っているのが分かる。

 今日び高下駄を履くというのも稀有な気もするが、それを道端に、しかも片方だけ落とすというのはどんなシチェーションなのだろうかと頭を傾げた。

「取りあえず、道端に寄せておこうか」

 先輩は下駄を拾い上げると道の端へとしゃがみ込み、優しげな手付きで据え置いた。

「先輩、何してるんです?」

 中々立ち上がらない先輩の様子を窺う。どうやら両手を合わせて下駄へと向かって拝んでいるようだ。

「おまじない。無事に持ち主に見つかりますようにって、よくおばあちゃんがやってたの思い出して」

「なるほど」

 俺も先輩に倣い、横に並ぶと軽く両手を合わせる。

「おばあちゃんがおまじないかけた落とし物ね、不思議と次に通るときにはなくなっていることが多かったんだ」

「へえ。あの下駄もそうなると良いですね」

「うん」

 先輩が相槌を打った瞬間、俺達の間を突風が駆け抜けた。砂埃が巻き上げられ思わず目を瞑る。

「あ」

 再び目を開けると、先輩が後ろを振り向き不思議そうな表情を浮かべていた。

「下駄……なくなってる」

 言われて視線を向けると、確かにあったはずの高下駄が跡一つ残さず消え去っていた。俺達が背を向けたのは突風が吹き抜けるのとほぼ同時で、誰かが拾い上げたのであれば気付かないはずがない。

「天狗の落とし物だったのかな?」

 そう呟く先輩の言葉を、俺は否定することが出来なかった。

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