水溜りと魚
先程まで降り荒んでいた夕立はすっかり上がり、空には青空が広がっていた。鳴りを潜めていた蝉たちも差し込む太陽の光に促されてジージーと声を響かせている。
「意外とすぐにあがりましたね」
「うん。雨の中走る羽目にならなくて助かったよ」
「俺も傘持ってませんでしたし同感です」
オカルト同好会の部室に避難していた先輩と俺は次の講義に向かうため学友会棟を後にする。短い時間の降雨であったがキャンパス内の至る所に水溜りが広がっていた。
「ん?」
先輩が何かに反応して立ち止まる。
「どうしました?」
「何か水の跳ねた音が聞こえた気がする」
「誰かが水溜りを踏んだのでは?」
「いや……そんな浅い水嵩じゃなくてもっと深い感じがしたけれど……この辺りに池とかあたっけ?」
話している内にもう一度聞こえたらしく、先輩が音源の方向に当たりをつけて歩き出す。まだ次の講義には余裕があるので俺も同行することにした。
辿り着いたのは人気のない一角だった。
「あそこ」
先輩が指し示す方向には小さな水溜りがあった。次の瞬間、小ぶりな魚が水面から跳ね上がった。ぽとんと音を立てて再び水面へと戻っていく。
「……水溜りだよね、あれ?」
「俺にもそう見えますけれど……」
近付いて見てもそれは地面に薄く溜まった水でしかなかった。試しに小石を拾い水面へ投げ込むも、硬い地面に打ち付けられるだけだ。
「何だったんだろう」
少しの間、二人でその場に留まっていたがもう魚が姿を顕すことはなかった。
講義の後、再びその場所を訪れたが水溜りは既になく乾いた地面が広がっているだけであった。