すねこすり
「え、あれ?」
台所に立つ先輩がやにわに妙な声を上げる。
「どうしたんですか?」
「何か、大きくて柔らかいものが足元をすすーって通り抜けたような気がして……確かに何かが触れたんだけれど……」
「先輩猫とか飼ってましたっけ?」
「ご存知の通り飼ってないよ! ここペット禁止だし」
「ですよね。俺は何も見ませんでしたが……すねこすりってやつですかね」
「すねこすり?」
先輩はピンとこない表情を浮かべている。俺はちゃぶ台に置かれたスマートフォンを拾うとネットで画像検索をかけてみた。
「あ、可愛い」
画面に表示されているのは古い絵画から漫画の類まで種類は様々だ。どれも一様にずんぐりとした犬のような猫のような獣の姿をしている。
「足の間を通り抜けるだけの妖怪ですね」
「無害過ぎる。怪異でも怖くないのいるんだねえ」
「ええ。でも一応妖怪なのでファブっておきますか」
「止めてあげて可哀想だから!」
俺は問答無用で先輩の足元へスプレーを吹きかける。
先輩に触れたのが本当に“すねこすり”であったのか、俺は姿を見ていないので分からない。全く違う“何か”である可能性もあるのだが、先輩には黙っていることにした。