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お泊り

初めて外の世界に出て、翻弄(ほんろう)され、泣いて、疲れて、ごはんを食べて、満足するとやって来るものがある…… 睡魔だ。



「トモカー、座りながら寝ないで、もう横になっちゃえば? 」



「ねッ、寝てないよ… ちょっと、瞑想(めいそう)してる…だけ…だもん。スー…」



「もう今日は、ここで寝かせてあげましょうよ。私、部屋からタオルケット持ってくる。」



そんな声が、遠いところから聞こえたような気がしたが、私の意識は深いところに沈んでいった――。








「うぅ…、寒い…、ん? 布団が短い…? うッ、身体が痛い… 」



頭がまだしっかり目覚めていなかったため、なんでこんなに布団が短いのか? なぜ体が痛いのか? ぼーっと考えていると徐々に昨日の記憶が戻ってきた……。



「えッ、あッ! 私、あのまま寝ちゃったの? それにもう朝‼ 」



今までの人生の中で思い返してみる限り、初めての場所でこんなに熟睡できたことなど一度もない。それなのに、いくら疲れていたとはいえ朝までぐっすりなど… それも、店から見える位置を占領してしまい恥ずかしい。



顔を両手で覆っていると、軽やかな足音とともに声が聞こえた。



「あッ、トモカおはよう! もう起きてたんだね。トモカは早起きだね。でも、昨日誰よりも早く寝たから、当たり前か~。」



そう言って、さわやかに起きてきたのはスズシロだった。基本的には笑顔が絶えない、しかる事もあるけれど、最後は何でも許してくれそうなお兄ちゃんタイプ。



それから続いてアサ、ナズナ、セリ、タビ、コグサの順でみんな起きてきた。コグサは起きてきたと言うか、セリとタビに引きずられてきた と言った方が正しいのかもしれない…。



「あぁ~、トモカおはよ~…むにゃむにゃ…ぐ~… 」



「寝るな!」



「コグサー‼ 重い~」



マイペースのコグサ、めんどくさがりの面もあるらしく、サボりの常習犯。

2人は奮闘(ふんとう)していたが、コグサは睡魔に勝てなかったみたいだ。コントのようなやり取りに、思わず笑っていると、




「トモカは、笑っている方が、かわいいわ。」



そう言ってくれたのは、おっとりだが実は一番怖いかもしれないナズナ。



「俺が今言おうと思ってたのに~先に言うなよナズナ… トモカやっと笑ってくれたね。」



ウィンクしながら褒めてくれるのは、お調子者のセリ。コグサ&タビと もつれながらコケている体制で言われてまた笑ってしまう。



「いつまで遊んでるの! 早く朝ご飯を済ませて、店を開ける準備をするわよ。トモカもご飯食べるでしょ? タオル出しておくから、昨日の所で顔を洗ってらっしゃい。」



しっかり者の姐さん気質のアサ、私を一番気にかけてくれている。



「おい、きッ昨日は言い過ぎたよ――。 ちゃっ、ちゃんと謝ったからな。」



みんなが順番に洗面台を使ったりしている間に、私のそばに来てぶっきら棒に謝ってきたのがタビ。

短気だし、口は悪いけど、実は優しい…… はず。



この6人が、ここの住人の小人たちだ。ちなみに、顔がみんな同じなのだ…。女の子二人は、髪型で区別がつくのだが(お下げと、ポニー)、男の子たちは似たような髪型で、黙られると区別がつかない。








朝日が昇っていたから、遅い時間だと覚悟していたのだが、今の季節は朝の4時ごろには 日が昇り出すらしい。今は5時、この八百屋さんは朝6時半に営業開始で、商品が無くなり次第終了。でも、日によってはあまりお客さんが来ない日もあるらしく、そんな時は3時ぐらいには店じまいをするらしい。



「この街の住人は、女や子供、老人が多いから、どこの店も遅くまでは開けてないんだよ。だから昨日みたいな時間に、あそこに人が座り込んでるのが不自然だったんだ。」




そう教えてくれたのはスズシロ。



「でも、いつもと違うルート通って行こうって言い出したの、タビなんだぜ。」



からかい交じりで茶化すセリ。



「うっせぇ、おまえは黙ってろ!」



学習しないタビ。



「セリ…、タビ…、」



無言で圧力をかけているナズナ。



「片付かないから、早く食べてね。時間押してるよ。」



いつもの事なのかアサはお構いなしだ。



「ごめんね~トモカ。朝からうるさくて。あッ、そう言えば、トモカ仕事を探してるんじゃなかった?良かったらここで働かない?」



コグサが発した言葉に先ほどまで賑やかだった食卓が、静かになった。こういう時、私のような人間は静かになったことに対して、絶対にプラスな考えなど浮かばない。



コグサから言い出したことだから、スズシロたちから、そんなつもりは無かったとは 言い出しにくいはずだよね… ここは私が断ったら波風立てずに、向こうも断りやすいはず。



「わッ、私には…… 」



無理だよ――。そう続くはずだった言葉を遮ったのは、アサとスズシロ同時だった。



「「それがいいね。」」



他の小人たちも、満更でも無さそうな雰囲気だった。




「そんなに多くの金額は出せないけど、あまり物の野菜を持って帰ってもらっていいし、トモカには店番の方じゃなくて、仕入れを手伝ってほしいの。」



アサの説明に、次はスズシロが続く



「昨日の話を聞いて、トモカが寝た後に、みんなで話し合ったんだよ。キミは、世界樹の住人と言う特殊な渡り人だから、正体が(おおやけ)になると、普通の生活もままならなくなる。でも、そんなことトモカは望んでいないのだろう?」



そう聞かれて、私はもちろんだと大きく首を縦にフル。




「それなら、裏方になるけれども、日が暮れてから仕入れの手伝いをしてくれるかい? 女の子に遅い時間の仕事を頼むのも、悪いとは思うんだけど、どうだろうか?」



そう言ってくれたスズシロの顔を見た後、食卓に着いているみんなの顔を見回すと笑顔を返してくれた。一人だけ腕を組みながらそっぽを向いていたが、瞳だけはチラチラこちらを(うかが)っており、ナズナにわき腹を思いっきり、つねられていた。




「あッ…、ありっ…がとう……うぅッ、、ござ、ひぃくッ、、いますッ。」



言葉が詰まってうまく出てこなかった。



「トモカは泣き虫だな~。」



昨日と違って、今日の涙はしょっぱい味がしなかった。



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