小人
「盛大なお腹の音ね‼ 確かに、お腹空いたわよね。こっちに来て、私たちと一緒にご飯食べましょう。」
そう言って店の中から声をかけてくれたのは、女の子の小人だった。
「アサ、こんな奴ほっとけよ。」
タビが食って掛かるが、力関係はアサの方が強いのかキッと睨まれるとタビが怯んでいた。
「さっ、こっちに箱は置いて、それからここから上がってきて。あなたにしてみたら、少し小さいかもしれないけど座って、座って! 」
面白いことに、店舗側は人間サイズの私が立ちまわっても支障のない空間なのに、居住スペースは小人仕様で天井も低く、全体的に狭くなっている。
「どうしてお店側だけあんなに広くしているの?」
私がそう尋ねると、
「このお店は、この区画に住むすべての住人が買い物に来てくれるのよ。だから、お店の高さをわたしたちに合わせてしまうと、買い物がしずらいじゃない。」
この街には小人以外の住人もいることに安心した。私にとっての第一街人が小人だったので、住人すべてが小人かと思い少しドキドキしていたのだ。
「あぁ、そうだ。あなたの胸元に入っている仔はテイムしている仔? よかったらその仔も夕飯一緒にどうかしら?」
私は何も言っていないのだが、何故分かったのだろう? そんな顔をしていたのだろう、くすくす笑いながら、
「胸元から、熱反応と魔力反応があったからわかったのよ。あなた何も知らないのね? どこから来たの?名前は?」
矢継ぎ早に質問されると焦ってしまう。何も答えずにいると、後ろから
「アサが聞いてるんだから、早く答えろよ。」
先ほどまで黙って聞いていたタビが嚙みついてきた。しかし、そういわれると焦り余計に言葉が出てこない……。ポケットから顔をのぞかせているスーさんの瞳が心配の色を乗せているような気がしたその時、ゴンッという音と〝いッつて―‼〟というタビの声――。
「こら、アサお前の悪い癖だよ。一度にたくさんの事を聞いたら、何から答えればいいか迷うだろう? それから、タビ、どうしてお前はもう少し 優しい言い方が出来ないのだろうね? さっきわざわざあの道を通ったのは、おまえが涙の匂いがすると言ったからだろう?」
その言葉を聞いてバット顔を上げると、顔を反らしながら、〝なんで言うんだよ。黙ってろよ!〟などと悪態をつきながら、少し頬を赤らめているタビがいた。
「すまないね、お嬢さん。態度も口も悪いけど、優しい奴なんだよ。自己紹介がまだだったね。私の名前は、スズシロ。大したお構いは出来ないけど、ゆっくりして行くといいよ。」
私も慌てて自己紹介をした。
「えっと、はッ、初めまして。執印友花と言います。こっちは友達のスーさんです。」
「シュウイントモカ… 何と呼べばいいのかな?」
「あッ、執印が家名で、友花が名前です。」
「あぁ、それならトモカと呼ばせてもらおう。それより、家名があると言う事は、トモカは高貴な生まれなのかい?」
その問いかけに私はキョトンとした…。後期?好機?高貴‼
「いえ、いえ、全然高貴なんて、私は庶民です。」
「でも、平民は名前しかないよ?」
そう教えてくれたスズシロに、これまでの経緯をすべて隠さず話した。はじめはニコニコしながら聞いていたスズシロも話が進むにつれて顔から笑みが消えていった…。
「と言う訳で、お金も食べ物も、仕事もない状態で途方に暮れていて、あの路地に座り込んでいました。」
まず初めに口を開いたのはタビだった。
「バッカじゃねーの!? そんな重要な事 初めて会った俺たちに、ホイホイ話すなよ!危機感てもんがないのかお前には‼ 」
盛大に怒られた。正論なので言い返せないが、タビには今までのウップンも相まって、そんな常識どこかへ吹き飛んで行っていた。
「そんなこと言ってもしょうがないでしょう! こっちの世界で頼れる人がいないんだから。スーさんは確かに手助けしてくれるけど、言葉が通じてこっちの常識教えてくれる人がいないと、私は一歩も部屋から外に出られないの――…」
また涙が出てきた。今日は泣いてばっかりの一日だ。膝にいるスーさんが私の涙をシャワーのように浴びている。涙が当たらない様に手で屋根を作ってみるが、こぼれた涙はその手の上も滑って、ローブにシミを作っていく。
「あー、タビが女の子泣かせた~‼ 」
「本当だ~。せっかく手伝ってもらったお礼しようって僕たちでご飯作ってたのに、何してるの~?」
奥から先ほど荷物を運ぶのを手伝った、確かコグサともう一人新しい小人が出てきた。
「うるせぇ、セリ黙れ!」
泣く私に、喧嘩を始める小人二人… もうカオスだった。そこにもう1人小人が現れる。いったい何人いるのだろう…?
「タビ、セリ、喧嘩するのなら外でしてきなさい。アサ、お客さんを水場に連れて行ってあげて。タオルも忘れないでね。スズシロ、コグサ、ご飯の準備をして待ってましょ?」
おっとりと、決して大きな声ではないのだが、みんなが彼女の指示に従った。私はアサに連れられて、一度店を出てから外に備え付けてある水道に案内された。
「中の水道はトモカには使いずらいから、外でごめんね。」
「私こそ、こんなに泣いちゃって、恥ずかしい…」
「今までがんばってたから、緊張がゆるんだんだよ。わたしたちは兄妹が多いから喧嘩も、泣く事もしょっちゅうさ。」
そう言って励ましてくれたアサにまた少しだけ涙が出た。何度か水で顔を洗い、少し目は腫れぼったい感じがするが、心は軽くなったような気がする。先ほどの店から少し中に入ると、テーブルがありそこに様々な料理が用意されていた。
「大した物はないけど、みんなで食べましょう。トモカとスーも、よかったらどうぞ。」
そう言われて、人生で初めて こんなに賑やかな食卓を、囲むこととなった。