扉のそと
あれから数時間―――、
「窓を開けて、外 確認してから出れば間違いなかったんだね…。」
寝室にある窓を開けて、沈んでいく夕日をお腹の合唱とともに眺める。そろそろ二人ともお腹の空き具合が限界だった。
「よし、今度こそ行ってみよう‼ 」
意気込みを胸に… 意気込みだけを胸に、扉に手をかけゆっくりと開いてみた。すると、数時間前とは違う場所が目の前に広がっている……。
「なんで、また違う場所なの?」
今度は、どこかは分からないが、とても静かな裏路地のような場所だった。表通りのような場所が、ここから伺えるが、思っている以上に人通りが少ない。スーさんがポケットに居ることを目視して、恐る恐る扉から出てみた。
少し、表の様子を確認して戻ってみると、先ほどまで開いていた扉が閉まっており、開けてみるとホコリ臭い、閉店してから年数の経っているであろうバーのような建物だった……。
「えッ‼ 」
頭が真っ白になった。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう‼ もう帰れないの? あッ、でも、ここからも世界樹が見えるからあそこまで行けば何とかなる? でも、どのくらいの時間が掛かるの? 」
パニックに陥ってぶつぶつ言っている時に、胸元で鳴き声が聞こえた。
〝ちゅ、ちゅ、ちゅちゅ、ちゅー‼〟
「落ち着け馬鹿者ー‼」って聞こえた…。そうだ、私は今一人じゃなかった。
「ズーざん… どうじよゔ‼ 」
手の平に出したスーさんに訴えると、やれやれ という様に両手を横に出して、首をフリフリ。それからローブの中に入れて見えていないが、首にかかっているカギを指さしている。片手でカギを引っ張り出すと、ほのかに光っている…。
「なに、これ…?」
〝ちゅ、ちゅ〟
先ほど知らない場所につながった扉を指さし、そのカギを差して回せとジェスチャーする。言われるがまま、やってみるとカギ穴の大きさが違うはずなのに、すんなり入り回すことが出来た。開けてみると、ちゃんと私の部屋につながった。
「よかった~。これで帰れるよ~。」
〝ちゅ〟
「この扉じゃないと、だめなのかな? すぐ帰れないと怖すぎて遠くまで行けないよ… 」
〝ちゅ、ちゅちゅ、ちゅ〟
スーさんが開いた扉のカベを指さすので、目を向けてみると扉に文字が浮かんでいた。
【世界樹の部屋へのカギの使い方】空き家の扉へカギをさして回すと部屋につながります。
空き家のカギ穴は強く願うと分かるようになっています。外出を楽しんでね。
読み終わると、スーッと文章は消えていった。しばらく誰も来ない裏路地で放心状態だったが、帰れる事がわかると現金なもので、先ほどの不安はどこかへ行ってしまった。その代わり忘れていた空腹が戻ってきた…。
「スーさん、お腹空いたね。でも、外には出れたけど、どうすればいいんだろう…。」
こんなローブにすっぽり包まった怪しい人間を雇い入れてくれる所などあるのだろうか?またまた途方に暮れ、とうとう裏路地にしゃがみ込んでしまった私。スーさんも心配してくれていたが、心配、不安、恐怖心がどんどん膨れ上がってきて、とうとう涙がこぼれてきた。
あぁ、なんて自分はダメな人間なんだ…。もっと早く動いてれば、もう少し余裕をもって動けたはずなのに、いつもいつも、あとが無くなってからしか動けない私。押し付けられても、断れない私。いい年した大人なのに…。物事がすべてうまくいかない――。
自分の状況に悲観し、泣き暮れていたその時、誰もいないと思っていた私の後ろから声がした。
「おい、そこのでかいケツ‼ 邪魔だよ。こっちは重い荷物を持ってるんだ。早くそこ退け‼ 」
確かに決して小さいとは言えないが、途方に暮れている人間に対してあんまりな物言いに、カッとなり言い返してしまった。
「誰が、でかいケツよ‼ こっちはこれからどうしようか、心配で不安で泣いてるって言うのに、あんたが別な道を通ればいいでしょう‼」
立ち上がって、後ろを振り向きざまに これまでのウップンをぶちまける様に大きな声で怒鳴ったのだが、そこには誰もおらず、あれっと思っていた時、足元から声がした。
「この道が一番近いし、いつも使ってるのは俺たちだ。商売の邪魔するなら、あんたがどいてくれ。」
視線を下に向けると、そこには小人がいた。箱にたくさんの野菜を詰めて運んでいるようだ。その小人の後ろにも、同じように箱を抱えた小人が並んでいた。
「タビ~、重いよ~。まだ進まないの~?」
一番後ろから声がかかる。先頭にいたこの小人はタビというらしい。
「すまん。今進むからちょっと待ってろ。ほら、後ろが閊えてるんだ早く退け。」
私は慌てて隅に体を寄せる。そんなに広い路地ではないので、何とか箱を持った小人たちは通り抜けて行った。しかし、一番最後に私のそばを通った小人が目の前で躓き、盛大に野菜をぶちまけた。
「うゔ~ッ、あぁ、タビに怒られる‼ 」
慌てて転がった野菜を拾い、痛いのを我慢して運んでいるのを見かねて、私は声をかけてみることにした。
「ねぇ、私にもお手伝いをさせて。」
私がそう言うと、きょとんとした顔をしたがその後すぐにっこりと笑い、
「本当に? ありがとう。それなら、この箱を持ってもらおうかな~。それから、僕に付いて来てね‼ 」
そう言って手渡された箱は、10㌔のお米を持っているくらいの重さだった。地味にツライ…。しかし、早くしなければ彼において行かれてしまうので、私は必死だった。先ほどの路地から表通りに出て、しばらくすると、また裏路地、表通りを幾度か繰り返し、やっと目的地らしい建物が見えてきた。
看板に思いっきり≪八百屋≫と書いてある。確かに彼らが持っていたのは野菜ばかりだった。
「おい、コグサ! なんでそいつ連れてきたんだよ。」
通りで一番先頭を歩いていた、タビが目ざとく見つけ、私を案内してくれたコグサを怒鳴りつけていた。しかし、コグサは全く堪えておらず
「まぁまぁ~、手伝ってくれるって言ったんだから、いいじゃないか~。」
コグサのその一言に顔を赤くしたタビが、
「おい、おまえ! こいつはな、いつもいつもサボろうとするんだから、簡単に手を貸そうとするんじゃない。ずっと手伝うつもりもないクセに、甘やかすな‼ 」
言われてみればその通りなのだが、困っている人がいたら助けてしまうのが人間と言うモノではないだろうか?店先で日も暮れている中、野菜が大量に入った箱を抱えて、私はまた沸々と怒りがわいてきて怒鳴り返そうとしたその時、ぐぅ~きゅるきゅるきゅるきゅる……
空気を読まない私のお腹が盛大に鳴り響いた。