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【保存棚の使い方】


1.棚のどの段に入れても大丈夫です。

2.熱いもの、常温のもの、冷たいもの、隣同士にしても問題ありません。

3.この棚は、時間経過を極限まで遅くしているモノです。決して腐らない訳ではありませんので、お早めにお召し上がりください。

4.棚のどこかに魔法石がありますが、お客様の過失で損傷した場合、責任は負いかねますのでご了承ください。

5.不具合がございましたら、こちらまでご連絡ください。 機械シ砂漠の迷宮の果て 行き



先ほどまでなかった説明書きが現れていた。

スーさんはまた扉をとんとん叩いて、ほら心配ないでしょ? と言わんばかりにこちらを見上げていた。



「本当だね。朝の温かい食事も、ここから用意してくれたんだね。ありがとう」


〝ちゅ〟



こうして、また一人と一匹の詮索(せんさく)が再開された。台所が終わると今度は、寝室に向かった。ベッドにクローゼット、鏡台の置かれたシンプルな部屋だった。




「一番 時間を過ごした場所なのに、こんなところにクローゼットなんてあったんだね。」


〝ちゅ〟



一番大きな両開きの棚を開けてみると、黒い色のフード付き… これはもしかしてマントかな? と思うものが一枚。ズボンと上着が二着ずつ、パジャマが二組 掛けてあった。それから引き出しになっている場所を開くと、上下の下着セットが三枚、靴下が五枚入っており、軽く見ただけだが、サイズ的には私仕様になっている感じだった…。



「下着はどうやって用意したの… うん、深く考えるのはやめよう。」


〝ちゅ?〟


スーさんは、可愛く小首をかしげていた。

それから今度は玄関へ行ってみると、やはり癖とは抜けないもので、パンプスが並んでいた。いくら外国様式になっているとはいえ、やはり日本人は靴のまま生活するのには抵抗がある。



「家の中用のスリッパでも買ってくるか~ それまでは、裸足でいいや。」


〝ちゅ、ちゅ〟



スーさんが、玄関まで下りて私に手招きしている。どうしたのかと思いその場に座り込んだのだが、違うとまた首を振られた。パンプスを叩き、こちらにと手招きするので、素足でパンプスを履き、玄関に下りた。



「どうしたの?」


次は、部屋の方を指さすので、隣にしゃがみ込み部屋を二人で眺めていると、右側の 明り取り用の窓から差し込む光の先に、先ほどまでなかった芝生のような緑が見える…。



そう思い眺めていると、その面積がどんどん広がっていき、最後には見渡す限りの床一面に、芝が生えたような状態へと変化した。



ぽかんと口をあけながら、その様子を見ていた私。〝ちゅ〟と満足げに鳴いたスーさんという何とも言えないコンビがそこにはいた。



「えッ、どうなってるの?どうなってるの!? 」



慌ててパンプスを脱ぎ、部屋に足を踏み入れるときに初めて気が付いた、



「玄関の段差も高くなってる‼ この芝生? ラグみたいに気持ちがいいし… 最高‼」



私の感激具合に、スーさんがまたエッヘンと胸を張っているように見えた。



「すごいね、スーさん。もしかして他の場所も、私が過ごし易いように、変化してくれたりする?」


〝ちゅ〟


もちろんというように、頷いてくれた。うれしくて、緑の草の上をコロコロ転がった。優しい草原の匂いがした。



気の済むまでごろごろしていると、玄関の所にもクツ棚が 備えられているのを見つけ開けてみると、編み上げ式のブーツが夏用、冬用で入っていた。動きやすさを重視しているが、とてもかわいい。



だが、今の所 出掛ける予定がないので、もう一度 棚に直した。

それから数日は、食べたいものを食べ、眠りたい時に眠り、お風呂に入りたい時に好きなだけ堪能した。そろそろ目を背けていたが、いい加減向き合わなければ、ならない問題が差し迫っていた……。




そう、食料が底をつきそうなのだ。わかっていたことだが、そろそろ外へ出て働かないとお金さえない。でも、もう人と関わるのが恐怖になりつつある。どんな人たちが生活しているのか、どんな仕事があるのか、治安はいいのか… 



この家が快適過ぎて、スーさんとの時間が優しすぎて、この家から外へと飛び出す勇気が、しぼんでしまっていた。



「まだしばらくは大丈夫だよね…。もう少ししたら、考えるよ。」



そんなことを言っている間に、さらに数日が過ぎとうとう保存棚が空になってしまった。



〝ちゅ、ちゅ、ちゅ〟



スーさんが外に出ようと訴えてくる。しきりに玄関の方に向かってとんとんしてくる…



「わかってる。でも、今日はいいかなぁ~… 」



目をそらしながら私がそう言うと、スーさんは自分のお腹をさすりながら、〝ちゅー…〟と一声鳴いた。



「そうだよね。スーさんの方がお腹すいたよね…。よし、行こう‼ 」



私はやっと重い腰を上げて、出掛けるための準備をすることにした。ズボンと上着を着て、すっぽり包み込むほど長いローブを身に着けて、この家のカギを首からかけて、夏用のブーツを履いて玄関の前に立った。



ちょうど御あつらえ向きに、スーさん用なのか胸元にポッケがあったので、そこに入ってもらった。ドキドキとうるさい胸元に、手を当てていると、スーさんがその上からちょんと触ってくれた。それだけで一人ではないと勇気が出せた。



扉に手を添えて、思い切り押してみると、まぶしい光が差し込んできて、ガヤガヤと活気あふれる大通りが目の前に広がっていた。道行く人が、ちらちらこちらを見ている視線に堪え切れず、扉を閉めてその場にしゃがみ込んだ。




「無理、ムリ、むり… なんであんなに人が多いの? そもそも、昼間だったよね? 」



ここの窓から見えている空は、夕方だったので油断していた。



「スーさん、夜にもう一度出直していい?」



〝ちゅ〟



こうして私の部屋から出る 第一歩は失敗に終わった……。




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