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寝倒しました。

あれから私はすべてを忘れるように、寝倒した。



寝ぼけて起き、サイドテーブルにある水を飲んでは寝て、フラフラとトイレに行って帰ってきては寝て、たまに誰が用意してくれたのか、軽食がテーブルの上にあったので、少しつまんでは また眠った。



しかし、不思議な事にいつ目を覚ましても室内は薄暗く、太陽が昇る気配がなかった。

どのくらい寝ていたのか わからないが、ある時何の抵抗もなく、パチッと目が覚めて、もう眠気は全くやってこなかった。



ベッドの上で両手を上に突き上げ、大きく伸びをする。背中が少し固まっており、イタ気持ちよさを堪能していると不思議な事が起こりだした。窓の外が少しずつ明るくなってきたのだ。



「あんなにずっと夜だったのに、朝日が昇り出した…。でも、爽やか~。窓開けれるかな…?」



いつもの癖で、独り言をつぶやいているとそばで返事があった。



〝ちゅ、ちゅ〟



「うわっ、あぁ、スーさん? おはよう。」


驚き思わず声を上げてしまったが、おはようと言うと〝ちゅ〟と挨拶を返してくれた。



「もしかして、窓開けられるの?」



〝ちゅ〟


朝日が昇りかけている窓の側へと近づき、そっと手で外側へと押して窓を開ける。



「えぇ~‼ 夜じゃん。なんで~? …ッてか、高っか‼ あの光ってるの蛍かな? 」



情報量が多すぎて大パニック‼ だったが、蛍らしき光を眺めながら、目を凝らして見ると、私の居る世界樹、栄養を取られ過ぎて草木の一本も生えていない土のむき出しのエリア。その先に森が広がっており、その先に街の明かりらしきものが見えた。



私が生活していた日本のような高い建物があまりないので、上から眺めている景色はミニチュアを見ているように見えた。




時間を忘れて眺めていたのだが、突如その時間も終わりを迎えた……ぐゥ~きゅるきゅるきゅる――



〝ちゅ、ちゅ、ちゅ~〟



「そうだね。先にご飯にしようかな…。」



スーさんに(うなが)され、身支度を済ませてテーブルに着くことにした。







窓から、サンサンと太陽が降り注ぐ。たぶん窓の外が本当の時間なのだろうが、この家の空間は、私の時間に合わせてくれているのだろう。



「ねぇ、スーさん… このご飯もしかしてスーさんが作ったの?」



目の前に並んでいるのは、具沢山のポトフ。目玉焼きに、手のひらサイズの丸パン。バターと牛乳が付いている理想的な朝食だった。出来立てなのか湯気も立っていて、とてもおいしそうだ。



もしかしてスーさんは、あの有名な映画に出演したことがあるのだろうか… そんなバカみたいなことを考えながら、ふふふッと笑みがこぼれた。こんな気分で食事をとるのは、初めてかもしれない。



私しか食べていないことが、すごく不自然に思えてスーさんに声をかけてみた。



「スーさんも一緒に食べよう。私の分けてもいいし、何か食べたいものがあるなら、持ってきてもいいから… ね?」



私がそう言うと、テーブルから下りて、そのまま台所へと向かった。私も気になって一緒に付いて行くと、戸棚をよじ登り、器用に扉を開けて、私の拳ほどの大きさのチーズを両手で抱えていた。



「かわいい… じゃなくて、両手がふさがったら下りれないよ… あぁ、だからいつもそこで食べてたのかな? それなら今度から、私がスーさんのチーズは食卓に用意するよ。今日は、私の手のひらに乗ってもらって、行こうか。」



そう言って私が手のひらを差し出すと、チーズを大事そうに抱えたまま、慎重に手のひらの所まで歩いて来てくれた。しかし、チーズが大きすぎて足元が見えないのか、よたよたしている… チーズを取れば動きやすかったかも と考えたが、後の祭り。



本人ががんばっているので、私は何かあった時、すぐに助けられるように見守っていた。時間はかかったが、無事手のひらに乗ってくれたので、さっそくダイニングに向かった。


その間に感じる手の平の熱に、変な話だが、生きていることを実感していた。



「スーさん、チーズだけでいいの?」


〝じゅ〟


「口に入っている時に、話しかけるのはマナー違反だったね。ごめん…。」


〝ちゅ〟


問題ないと言うように、もう一度鳴いてくれたスーさんと、賑やかな朝食になった。


「これからご飯は、なるだけ一緒に食べるようにしよう。」


〝ちゅ〟



こうして一つずつ、我が家のルールが出来ていくことになる。










お腹も落ち着いてくると、気持ちにゆとりが出来てきて、家の中 主に台所を調べてみることにした。



「一式、調理道具はそろってるんだね。」


〝ちゅ〟


「冷蔵庫みたいなのはないよね…?」


〝ちゅ、ちゅ〟


L字型のキッチンには、ありとあらゆる物がそろっていた。フライパンに鍋、コンロはつまみは無かったが、はめ込まれている石? に手をかざすと火が付いた。水も同様で、この石は、それぞれの役割があるらしい。ファンタジーだ。



スーさんに案内されたのは、一番端にあった縦長 両開きの戸棚の前だった。



「スーさん、これ木の戸棚だから冷蔵庫じゃないよ?」


〝ちゅ、ちゅ、ちゅ〟


いいから開けろというように、扉に手をとんとん と叩いた。

言われた通り扉を開けてみると、戸棚の中は木の板で区切られ、様々なものが入っていた。



野菜に、お肉、魚に、果物、一番手前にお玉が入ったままの、鍋があったのでフタを取ってみると、湯気が立ち上った。



「こんな熱々のお鍋を同じ場所に置いてたら、肉とか魚がダメになっちゃうよ。別な所に置いとこうか?」


そう言って私が、取っ手を握って取り出そうとすると、スーさんが足元で左右に首を振っていた。



〝ちゅ、ちゅ、ちゅ〟


ジェスチャーで鍋を戻すように言われたので、その通りにしたあと扉を閉めると、ただの木の板だった木目に文字が浮かんでいた。



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