寄り添う優しさ
「おい、焦げてるぞ。」
本日はクォーツの所で定例の試食会。和食になりそうなものは未だに見つけられなかったので、ドリアでも作ろうかと奮闘していたのだが、集中力のなさに今日は失敗に終わりそうだ……。
「ごめん――…。」
そんな様子の私に怒るでもなく、焦げとったら食べられるなっと言いながら適当な皿に無事な玉ねぎを移動させていた。
「たまにはパンでもいいだろう。今日は俺が作るから、お前はそこに座ってろ。」
温かい紅茶を手渡されて、邪魔にならない場所に追いやられてしまった。しょんぼりしていると、卵の焼けるニオイ、パンを焼く香ばしい匂いとが部屋に充満してきた。
誰かが自分のために何かを作ってくれる姿は、うれしいものだと悩み事を頭の隅に追いやってしばらくの間ながめていた。
目の前に置かれた皿の中には、焼いたパンに目玉焼きとハムチーズまで乗っており、思わず
「ジ〇リ飯だ!」
「ジ〇リ飯?」
「なッ、なんでもない。おいしそ~う、ありがとう。」
だが、どうやって食べようか…、かぶりついてしまうと、絶対と言っていいほど一口目で具材が上から落ちる。今までキレイに食べられたためしがないのだ。そう思い、クォーツをちらりと見ると、がぶりと大きく一口。下の受け皿に半熟の黄身が垂れてもお構いなし。
私の視線に気づいたクォーツが、
「こんな代物、お上品に食べられるわけないだろう?汚れたら洗えばいい。皿に垂れたなら、最後パンでふき取って食べれば一緒だ。それに、二人しかいないのに誰が気にするんだ?冷める前に食べろ。」
そう言ったクォーツは三口ほどで食べ終わり、物足りなかったのか他に何かないかもう一度台所へと姿を消した。
「いただきます。」
かぶりついたパンは案の定ぐしゃぐしゃになってうまく食べられなかったが、とても美味しかった。
「今日はどうする?何か持って帰るか?」
お腹も満たされて一息ついた頃合いにクォーツはそう尋ねてきた。無理に踏み込んでこない優しさがとても身に染みて、静かに涙があふれてきてしまい彼を困らせてしまった。
ぐすッ、ひっく――… 涙はどうにか治まったが、しゃっくりが収まらず苦しい。鼻も詰まっているので最悪だ。コップに一杯の水を持ってきてくれた彼が、少しは慣れたところの腰かけながら話し出した。
「俺に親がいないことは前話したよな。」
彼の問いかけに頷きて答え、話は続いた。
「この店の持ち主だったじいさんに拾われて、生活が安定しだした頃、俺は毎晩悪夢にうなされるようになった。」
今の太々しい彼からは想像できないことだった。
「なんでかわかるか?」
そう問いかけられて、しばし考える……。答えは出なかった。すると彼は、
「トモカも心のどこかでわかっているのかもしれないぞ。俺の場合、手に入れた安寧がまたいつか手からこぼれるのではないかと怖かった。」
彼の言葉に私はハッとした。確かに私も怖いんだ。突然来たから、突然帰ってしまう事が何よりも恐ろしい。想像すると血の気が引き指先が冷たくなっていく。
「だから俺は、手からこぼれて行かないよう努力することにした。文字の勉強をして、独学でいろんな事を学びまくった。今はいらない事かもしれないが、いつか役に立つと信じて貪欲に学んだ。じいさんにはよくゲンコツ食らってたな。それから大ゲンカだ。でも……、感謝してる。」
学んだことが自信につながって、叱られても、ケンカしても帰れる場所。
「いいな。どうすれば、その場所に行けるのかな…?」
「俺から言えることは、隠すな。本当にわかってもらいたいなら、ぶつかりに行け。無知なら知ればいい、聞けばいい。無知を自覚して聞きに来ているのを笑う奴は、こっちから願い下げればいい。そいつはクズだ。」
吐き捨てるように言ったクォーツに、何かあったのだろうとさとる。
もし、もしうまくいかなかったら、ここへ来てもいいかと尋ねてみると、
「最近、この家によく出入りしているねずみがいるんだ。なぜか俺と目が合うと右手をオデコにあてる仕草をする。あれ、お前のとこのねずみだろう?」
疑問符はついているが、確信に近い問いかけだった。
「グランって名前を付けたから、出来るのならあれに伝言でも頼んでくれれば、いつでも来ればいい。」
それはスーさんにお願いすれば出来ると思うので、問題ないと伝えた。でもなんでグラン?
「種は大量に仕入れるとダメなやつも入ってて、それを選別してるんだが、あいつはひょっこり現れて、フリ分けを手伝ってくれるんだ。その時、ダメだった種は廃棄するんだが、あいつはそれを好んで食べる。だから…まぁ、なんだ――…最近太ったんだ。それで大きいって意味のグランにした。わかりやすいだろう?」
性別が分からないから女の子だったらかわいそうだろう?という謎の気遣いに私は大笑いしてしまった。




