年の功
ひとしきりみんなで明日の開店準備を終えると、恒例の夕食タイム。今日もアサの作る美味しい料理と、【レロ】のパンに舌鼓を打ちながら、和やかな時間を迎えた。
「そうだった。タビ、昨日… もう今朝かな?【レロ】の店主バロルさんとエルダさんに会ったよ。」
「俺も、話そうと思ってた。バロルさんが、トモカが買いに来るパンの料金、八百屋の方につけとくって言ってたぜ! いいんだろう、スズシロ?」
私ではなく、スズシロに話を振ったタビ。食後のお茶を堪能していたスズシロが、
「トモカが捕まえた懸賞金が掛かっていた、盗賊たちのお金があまっているから大丈夫だよ。トモカ、今度からどこで買い物するにしても、【小さな八百屋】に料金は付けてもらう様にすればいい。」
私の代わりに懸賞金を取りに行ってくれたスズシロに私は、食事代とときどき泊まっていく宿泊費、迷惑料としてそのままお金を受けつらず押し付けた…。
はじめは受け取ってくれなかったのだが、私が頑なに受け取らなかったことで折れてくれたと思っていたのだが、違ったらしい。
「この店も、この街でそれなりの年数しているからね。どの店でも付けがきくんだよ。トモカの特徴は、信頼のある店の店主にそれぞれ伝えてあるから、気にせず欲しいものを買い物しておいで。」
見た目に騙されるが、スズシロたち実は私よりも年上らしい…。子どもが遠慮したらダメだよ? そうニッコリ笑ってそう言われては、断ることもできなかった。
でも、スズシロたちの気遣いにより、これまで私とスーさんの住む家には、野菜と果物が大半を占めていたのにそこにパンが加わり、みんなと食べる夜は別として、少し食卓が華やかになった。
「今日も大量だね~。スーさん、ねずみさん達あとはよろしくお願いします。」
あの強盗を捕まえて、それなりの日にちが経過したのだが、今日も大量に捕縛ヒモにかかっている犯罪者予備軍――…
懸賞金がかけられるほどの人物はいないにしても、パトロールしていないエリアでも連日捕まるので、それはそれは、大変なことになっている。自警団の北エリア本部が……
「隊長、今日も届いてます。」
「クソが! 離せ。俺は何もしてねー!」
「こいつは誰だ?」
「はッ! 西エリアから通達のあった要注意人物と人相が似ています。」
「門を通った記録を洗い出せ。西エリアにも確認を入れろ。とりあえず、牢に入れておけ。」
「隊長、申し上げにくいのですが…、連日の捕縛者により牢がそろそろ限界です。それから、隊員の手も足りず、どこか他のエリアから応援要請できないかと下の者たちから意見が来ております。」
「各エリアの隊長クラスにあとで連絡を入れる。もう少しの辛抱だと皆に伝えておいてくれ。」
「はッ! よろしくお願いします。ほら、こっちだ! さっさと歩け。」
「治安は日に日によくなっているんだがな…… 処理が追いつかん。どうしたものか――…」
隊長さんたちのやり取りを、少し遠い場所から見ていた私は思わず頭を抱えた。
「あぁ~、やり過ぎた……。 捕縛ヒモの設定が厳しすぎるのかも…、暗い時間に民家をのぞき見してる人まで捕まえてたら、ただでさえ少ないのに自警団パンクするよね――…。」
〝トモカ、終わったよ。ぶつぶつ何言ってるの?〟
ミノムシ犯人たちを自警団まで運んでくれているのは、スーさん達ちゅーら隊の皆だった。各エリアで捕縛されている人を、みんなが交代で運んだり人数が多い時には、違うエリアから応援を呼んだりして仕事をしてくれている。ここ最近の報酬は、【レロ】のチーズパンだ。一番人気になっている。
「スーさん、大変だ。連日人が捕まり過ぎて、自警団の人手が足りなくなっているよ。このままじゃ、通常業務にまで支障が出ちゃうじゃん。捕縛ヒモの設定今からでも変えようかな?」
〝トモカ、落ち着いて。怪しい行動をとってる人間は、遅かれ早かれ行動すると思うから、設定はこのままでいいと思う。〟
「でも、応援来るまでの間、捕まえた人を道端に転がしとく訳にもいかないよね…?」
賑わう界隈、そこに転がるミノムシ状に捕縛された人……。それはそれで、抑止力にはなるのではないかと、一瞬頭をよぎったが、冤罪だった場合大変なことになる可能性が大きいので、頭を振って考えを散らした。
〝トモカ、もう一つ牢がある施設がこの街にはあるでしょ?そこに明日から捕縛した人は連れて行こう。〟
確かにこの街には、もう一つ自警団とは別にそういった事に特化している組織があった。世界樹の守りである北の騎士団。通称:ノース
実は、騎士団が拠点を構えている場所には、今まで一度も足を踏み入れたことがない。ほら、悪いことしてる訳ではないのだが、お巡りさん見ると逃げ出したくなるあれですよ。
それなのに明日から、あっちに持って行くというスーさん。何事も無ければいいんだけど… そんなフラグを立てたことに気づかずに、今日のお仕事は終了した。