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人族のパン屋さん

「えッと…、トモカと言います。この子はスーさんです。よろしくお願いします。」



そう言って深々と頭を下げると、



「ご丁寧にありがとうございます。先ほども言いましたが、パン屋【レロ】の店主をしています。バロルと、こちら夫のエルダと言います。二人とも人族です。トモカの話は、いつもパンを買いに来てくれるタビから、聞いていました。おいしそうにパンを食べている、と伺っていたので、ぜひ焼き立ても食べてもらいたいと思っていた所です。帰りに寄っていただけると助かります。もちろん、スーさんも一緒で構いません。小麦を運んでもらったお礼もしないといけませんし…ね?」



その言葉に、捕縛ヒモに運ばせていた小麦粉の事を思い出した。



「勝手にごめんなさい…。でも、すごく重いから、少しでもお役に立てればと思って……」



「とても助かりました。思いのほか重労働ですからね。老体には(こた)えます。」



その言葉を聞いて、私はお二人に提案してみることにした。



「あのッ、あのですね…、よかったらなんですけど、この捕縛ヒモをここに設置させてもらう事ってできますか?もッ、もちろん昼間の明るい時間は、見えない様にしますし、魔力の供給は私がするので大丈夫です。小麦を運ぶのも、指示を出したら動くように設定しますので、どうですか…?」




ここはタビがよく買い物に来る場所だし、パンはおいしいし、何かあって閉店とか、休業は困る。そう言った下心があって設置を提案したのだが、なかなか返事が返ってこない――… 



「おっ、お金なんていりません。何かあってパンが食べられなくなると困るんです。下心だらけなんですけど、よかったらお願いします。」



再度、今度は直球でお願いしてみると、下げていた頭の上から二人分の笑い声―――。



「もちろん、よろしくお願いします。ふふっ、タビが言っていましたが、実際本人に会うと…… 」



そう言ってにっこり笑い、あとに続く言葉は無かった…。タビ、私の事なんて言ったの!



「お嬢ちゃん、そんな便利なもの本当にタダで借りてもいいのか? 手伝いまでしてもらえるなら、こっちは大助かりだけどよ。」



足の痛みから復活していたエルダさんが私を見て、心配そうに尋ねてきたので、お二人にちょっと外に出てもらった。



「ちょっと見ててくださいね。【解除】」



私がそう唱えると、店の前には捕縛ヒモの大群。お二人もあまりの量にびっくりしている。



「これ、すべて捕縛ヒモですか? これだけ揃うと圧巻ですね…。」



バロルさん優しい。言い方がオブラートに包みまくってる。タビなんてキモイを連呼しまくっていた。でも分かる。私もキモイと思うもん……



「見て分かる通り、これだけの量を連れて歩くの嫌なんです…。置かせて下さい。お願いします。」




私の切実さが伝わったのか、快く引き受けてくれた。その代わり、このエリアを回る時は、必ず焼き立てパンを取りに来る事。それが条件だと言われた。思いがけない条件に、驚きと嬉しさで言葉が出てこず、にやけそうになる頬を押さえながら、何度もうなずいた。





また5時頃にお邪魔することを約束し、捕縛ヒモを4本設置してパトロールを再開した。

そう言えば、スーさんは私がここの住人と話をするとき、基本空気のように存在感を消す。油断すると本当に居なくなっている時があってびっくりするのだ。




「スーさん、なんで私がスーさん以外と話してるとき、スーさんは話に入ってこないの?」



この時の私は何も考えてなかった。ただ疑問に思ったことを口にしただけ…



〝うーん… ボクの声はトモカにしか聞こえないから、緊急事態以外は家で話してもいいかなと思ってる。それから、トモカ自身の世界を広げるために、いろいろな人と話した方がいいと思ってるから…かな。〟



ふ~ん、なんて言いながらパン屋エリアのパトロールも半分に差し掛かり、そろそろ時間だから、また明日残りの半分見回ろうかと話を付けて、バロル夫夫の待つ【レロ】へと帰ることにした。





店が近づくにつれて漂ってくる、かぐわしい匂い――。



「スーさん、ヤバい。もうおいしい。」



〝トモカ、まだ何も食べてないよ?〟



「いや、もう匂いがおいしい…。」



そんな、アホみたいなことを言いながら、今度はオープンの文字が掲げられた店の方から店内へと入った。



「かえりました。」



こじんまりとしているが、ここも木をベースにしており落ち着く内装になっている。編みカゴに入った焼き立てのパンたち… 幸せ空間が広がっていた。



「いいタイミングでしたね。続々と焼きあがってくるので、このカゴとトングで好きなパンを選んでいてください。」



そう言われ、カゴとトングを手渡されたタイミングで奥から、



「次、できたぞー!」



「今行きますー。ではトモカ、ゆっくり選んでくださいね。」



でも、熱いので気を付けるように! と言いながら(せわ)しなく厨房へと入っていった。その背中を見送りながら、幸せ空間に取り残された私は考える―――。



私、お金持ってない‼ 



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