小人のお怒り
「こんばんは……。」
「あら、トモカが来たわ。強盗が捕まったニュースが今朝、入ってきたからどうやって知らせようか、みんなで考えていた所だったの。」
そう言ってくれたのはナズナ。
「今日までは、昼間の仕入れだったから、明日から通常業務に戻すね。連絡できてよかったよ。」
スズシロが安心したように話す。
「おい、かッ、変わりなかったか?」
照れているのか、そっぽを向きながら問いかけてくるタビ。
「毎日、トモカはちゃんとご飯食べてるか、早く捕まればいいのにって、うるさくてしょうがなかったんだよ。」
セリが、またしても ちょっかいをかけタビとのケンカが始まった。それを止める、アサ。やっといつもの日常が戻ってきてくれて、うれしかった。
「あの、実は…… 聞いてほしい事と、お願いがあって…、」
そうして私は、ここに捕縛ヒモの使い方を聞きに来たあとから、今日までの一連の流れと経緯を説明すると―――…
もの凄く怒られた。みんなから代わる代わる、お説教されながら、私はうれしくなり笑った。
「みんなが怒り過ぎるから、トモカが壊れたよ~!」
「コグサ、こいつが変だったのは、初めからだ。」
「タビ、いつもそんなこと言うから、女の子が逃げるんだよ。」
「トモカ、私たちが言い過ぎたわ。これ以上ポンコツにならないで!」
「ナズナ…、トモカ、ちょっと休憩しようか?」
「セリ、こんな時に茶々入れない。とりあえず、ご飯にしましょう。久しぶりに、トモカが来てくれたから、張り切ろうかな。」
アサが最後に皆をまとめ上げ、それぞれが落ち着くために、まずは夕飯をご馳走になることにした。
相変わらず、たくさんの品数が並び、とても美味しかった。家でも、食べてはいるのだが、やはりみんなで食事をする楽しさを覚えてしまうと、家でスーさんと二人で食べるご飯は、少し物足りない感じがしていたのだ。
食後のお茶をいただきながら、最初に口を開いたのはアサだった。
「それで、さっきの話の続きだけど、本当に強盗を捕まえたのはトモカなんだね。」
「うん。実は、スーさんと他のねずみ達とで、この街をエリア分けして、夜パトロールしてたの…。もちろん、危ないと思ったら連携取って逃げる練習もしたし、飲み屋のある所は、人が多くて怖かったから、昼間に捕縛ヒモだけ条件付けて、設置だけしてきたから、夜は行ってない。」
私がとりあえず説明すると、みんな少しホッとした顔をしてくれた。しかし、ナズナだけはとてもお怒りだった…。
「確かに、捕縛ヒモの使い方をレクチャーした時に、捕まえるとか、そんなことを言ってたわね。覚えているわ。でもね、まさか本当にやるなんて思わないじゃない!だってあのトモカよ?タビと二人で冗談だと思ってたのよ?捕縛ヒモは、所詮ヒモなの!ナイフとか風の魔法でも切ることが出来るの。本当に無事でよかった……。ねぇ、トモカ‼ 聞いてる?」
私は今までの人生、押し付けられたり、出来なかったことを悪く言われたり、心配しているフリはあっても、ここまで私自身を心配してくれる人たちに出会ったことは無かった。
「聞いてるよ。それでも、私は、私のために犯人を捕まえたかったの…。みんなとの時間を邪魔する犯人がイヤだったから――…。それに、これからも続けようと思う…。」
私がそう言うと、反対意見を返そうとナズナが口を開きかけるが、スズシロとアサが待ったをかけ、
「トモカ、自分がどうしたいのか言ってごらん。それが出来るか、出来ないかは別にして、思っている事を話してごらん。」
この言葉に、私はうつむき視線を下げる…。自分の気持ちをさらけ出すのには、勇気がいる。どんな些細な話だろうと、本心を話すと言う事は、もし否定された時、心の柔らかいところに傷がつく……
怖くてたまらない。それでも、向き合うと決めたのだ。本気で心配して叱ってくれるこの人たちと、
「私はね、自分に自信がないの…。あっちの世界で否定され続けて、こっちの世界に来て初めは、肩の荷が下りた気がした。でも、でもね―― 人って存在する理由が欲しい生き物なんだよ。わがままだよね…。わかってるんだけど、また誰かの荷物になるのはイヤだ。一人の足で立ちたい。でも怖い。それでも、ここに居ていい理由が欲しい――… 」
沈黙が場を支配する。顔を上げるのが怖い。やっぱり私は何も変わってない――…
「すればいいじゃん。お前の思う通りにやってみろよ。無理ならやめればいいじゃん。捕縛ヒモだけじゃ危ないなら、ナズナがなんか他のもん作ればいいだろ?」
「タビの言う通りだよ~‼ 僕達だって、ここで商売するまで大変な事もいっぱいあったけど、楽しかったよ。」
「そうだよトモカ。無理はせずに、泣きたくなったら俺の胸を貸してあげるからいつでもおいで!」
「セリ、キモ――。仕方ないから、捕縛ヒモに改良を加える。それなら許すわ。」
「ここの手伝いはどうするんだい?あぁ、そのまま継続して、夜にパトロールするんだね。」
「それなら、次の日に安否確認ができるからちょっとは安心だね。」
この日、またまた大泣きで、強盗に懸けられている賞金を取りに来てくださいと、自警団に言われている事や、どうやって取りに行けばいいかとか、話したいことはまだまだあったのにもかかわらず、目が覚めたら朝だった。