レッツトライ
〝ボクも不便に思ってたんだよ?それなのにトモカは固定概念にとらわれ過ぎだよ。願えば叶う。それが世界樹の住人の特権だよ。〟
そう言ってスーさんは説明してくれたが、いまだに色々追いつかなくてフリーズしている。
「話ができるようになったのは、わかった…。それなら、私が行かなくても、犯人を捕まえてもらえたり出来ないのかな?」
〝願いは確かに叶うけど、思い続けていないと叶うまでに時間が掛かるんだよ。〟
確かに、私はことあるごとに考えていた。言葉が通じれば、一言で済むのに伝える側も、汲み取る側も不便…、とか、言葉が通じれば、通信系の道具作りさえすれば、連絡楽なのにとか… いろいろな場面で願っていた。だから、願いが叶ったのか!納得。
でも、裏を返すと、それだけ思い続けなければ願いは叶わないと言う事で…… それなら、動いた方が早いかも。でも怖い――。
「スーさんどうしよう。怖いんだよ~。」
〝それなら、何が怖いの?〟
「暗いし…」
〝ライト魔法使えば、大丈夫だね。〟
「何か出てきたら…」
〝捕縛ヒモをトモカのまわりすべてに配置しようか。〟
「静かなのも逆に怖い…」
〝ボクも一緒に行くから、話しながらパトロールすれば問題ないね。〟
あれ?なんだか、あんなに怖いと思っていたのに、一つずつ取り出して見たらそうでもなかった件――。
〝トモカ、一番最悪な事って何?〟
「スズシロたちみんなが、危険な事に巻き込まれるのが、一番最悪な事かな。」
〝それなら、行こうよ。ボク達だっている。危ない時は、助けるから。〟
そうだよ。このために準備してきたんだ。私のいつもの時間を取り戻す。こうして私は、初めて八百屋エリアをパトロールすることが出来た。そして2時間後―――。帰ってきたスズシロたちの店の前に3人のミノムシになった男たちが転がっていた。
「ほどけー!なんじゃこりゃ!」
「ふざけんなよ、マジで‼ ぶッ〇すゾ!」
「あぁ~、だから今日はイヤな予感がしたんすよ~。助けて~…」
コロコロ転がる姿は滑稽なのだが、いかんせん柄が悪い…。真夜中だと言うのにうるさくて、このままでは小人たちが起きてきてしまう。
「スーさん、どうしよう…。」
〝確かにうるさいね。自警団にここまで来てもらうのも、時間が掛かるし…。運ぼうか!みんな~、よろしく〟
このスーさんの一言により、出てくる出てくる、たくさんのねずみ達。知らない人が見たら大変なことになりそうだ。そんなことを思っている間に、ねずみ達がミノムシ強盗犯の体の下に潜り込み、運び出した。
その様子を見ながら、私の頭の中では、運動会のテーマ曲が流れていた。ほら、大玉を頭の上から渡していく競技にそっくりだ。急に体が動き出したことに、慌てた犯人たちがまたもや騒ぎ出す。
「なんだこれ!」
「おい、誰か止めろ!」
「虫じゃないっすよね?俺、虫だけはダメなんすよ~。」
私とスーさんは、少し離れた物陰から様子をうかがっていたのだが、無事自警団の待機場に到着したみたいだ。それ以前に、犯人たちがうるさくて、団員がチラホラ出てきていたのだが…
「先輩、こいつら指名手配になっていた強盗じゃないっすか。」
「本当だ。こいつらを捕まえて、連れてきたのはいったい誰だ?」
「わかりません…。でも、これだけの数のねずみがいるなら、テイマーじゃないっすか?」
「こいつらには、懸賞金が掛かっているからな…、出来れば君たちのマスターに伝言を頼みたい。」
犯人を引き取りに来てくれたのは、この日の夜勤担当。真面目な人なのだろう、律儀にねずみ達にお礼を言い、マスターに懸賞金を取りに来てもらいよう伝言まで頼んでいた。その伝言をスーさん経由で受け取った私は、頭を抱えていた……。
お金をもらえるのは、ありがたいのだが、人見知りどころか人間不信気味の私に取りに行く勇気などない。だからと言って、私以外に言葉の通じないスーさんにお願いするわけにもいかない……。
この世界にも銀行のようなシステムがあれば、振り込みをお願いするのだが、今まで小人たちにもそのような物があるとは、聞いたことがなかった。
「詰んだ… 賞金取りに行けない。欲しくない訳ないけど、全身ローブの私が、実は一番怪しいかも…」
〝それなら、いったん帰って落ち着いてから、ゆっくり考えよう。向こうだって賞金の準備があるだろうし、焦っても仕方ないよ。小人たちに相談してもいいんじゃない?〟
スーさんの提案に乗ることにし、その日は名乗りを上げずに帰ることにした。エリアリーダーのねずみにお礼を言い、一番近くにある扉をくぐり、我が家へと帰宅することが出来た。
〝とりあえず今日は、念願の強盗確保、おめでとう。ゆっくりご飯を食べて、お風呂に入ったら明日、スズシロたちの所に報告に行こう。〟
「そうだね。スーさんも一緒に行こうね。今日はお疲れ様。」
そう言ってお互いをねぎらうと、今日はちょっとしたご馳走にして、明日いつもの時間に出勤することに決めて、眠りにつくことにした。