しゃべった
今、私がいるのは《小人の八百屋》周辺エリア、通称八百屋エリア――。
「スーさん、ここのエリアは今の所大丈夫みたいだね。」
〝ちゅ〟
ここまで来るのも大変だった。まずは、世界樹の扉と各エリアの拠点をつなぎ、私が各エリアを歩き回れるようになるのに10日かかった…。いや、私にしてはがんばった方だ。
約束の1週間休暇は終わったのだが、いまだに強盗が捕まっていなかったので、休みは延長に突入していた。
初日は、ひたすら扉をつないで地図と照らし合わせを行ない、エリアの広さ、逃げ道のリサーチ、自宅のカベにある地図を、どうにか機能をそのままに持ち運べないかの検討…。
魔法は想像力‼ 魔力は無限なんだから出来るはず。と意気込んでみたはいいが、これがなかなかうまくいかない…… そこで、持ってきていた荷物の中にありましたスマホ。
この中に、新しい地図アプリを作成してナビ機能を随時OFF 音声ナビで解決できました。
普段スーさん達としか行動を共にしないので、言語での応答はうれしかったりする。
「スーさんも、話が出来ればいいのに―――」
私の発したこの一言で、後ほど大変なことになるのだが、今は置いておこう。
【この先、300m直進です。】
地図アプリにより、各エリアの扉から離れても帰ることができるようになり、本当に助かっている。夜暗くなると街灯がないので、自分の居る場所さへわからなくなる……。
本当の暗闇ってこんなに怖かったんだと、実感しました。
各エリアの数は全部で8か所。この街は、世界樹から出入りする門まで一直線に道がある。これが中央通りだ。そこからちょうど中央通りとプラスになるように、メイン通りと言われる通りがある。ここは隣街と行き来する通りなので、騎士団、自警団の待機所が設置されているため、犯罪も少ない。
この通りから外れた、他の区画に目が行き届かず犯罪が横行しているらしい。そこで、タビがおススメしてくれていたお店でエリア分けをしてみたら、とても分かりやすかったので、使わせてもらっている。
まずは、門のすぐ側、宿屋エリア。昼間は飲食店も兼ねていて賑わっているエリアだ。タビのおススメは【キキョウ亭】人族の娘さんとお父さん二人でしている、こじんまりとした宿屋だった。宿屋としては泊まれる人数が少ないので、そうでもないのだが、料理がおいしいと評判で、いつも満席らしい。看板娘のミーシアちゃんも一役買っていると、書いてあった。
どの料理もおいしいが、一番のおススメは裏メニュー香草パイの包み焼――。材料がある時にしか作らないためメニューには載っていない常連だけが知ることできる裏メニューと記してある。食べてみたい…。
中央通りをはさんで向かい側に位置するのは、飲み屋街エリア。確かに、宿屋に近い方が利用する方はありがたいよね。この飲み屋街エリアのおススメは、白ヘビ獣人が経営する【キューラ】、オリジナルカクテルが人気。実は、おつまみはキキョウ亭から仕入れているので、ハズレがない!
タビ、諜報員なのかな?まぁ、それは置いといて…。宿屋からの並びと、飲み屋からの並びでエリア分けすると、
宿屋、お肉屋、穀物屋、パン屋
飲み屋、服屋、八百屋、本屋 と中央通りをさかいに、縦に並んでいる。
この8か所をそれぞれのエリアとして、毎日1エリアずつ巡回することにした。あっ、飲み屋エリアだけは、スーさんにお願いしている。夜でも人が多いから、まだ無理だった。お酒も入っているしね。なので、トラブルも多いと見越して、捕縛ヒモを一番多く設置した。
やっと地図との連携、各エリアのねずみ達との連携が取れ、実は今日パトロール初日だったりする。一番は、やはり日頃お世話になっている、小人たちのエリアからスタートしようと決めていた。
いくら万全に準備してきたとはいえ、恐怖心だけはどうにもならなかった。スーさんや、このエリアに常駐しているねずみ達が周りに待機してくれているし、捕縛ヒモだって、これでもかと言うくらい持ってきている。
それなのにも関わらず、私は八百屋付近からあまり離れられなかった…。
「やっぱり、私はダメな奴だ…。」
そんな自己嫌悪に陥っていると、不意に私の独り言に返事が返ってきた。
〝何がダメなの?〟
「だって、せっかくここまでしたのに、見回りしなきゃ、犯人捕まえないと意味ないもん。」
〝結果が出ないとダメってこと?〟
「そうだよ。結果出さないと、意味ないッ…もん―…。あれ?」
〝なんで人って結果ばかり求めるんだろうね。そこに行きつくまでに行動したことは、決して無駄じゃないよ。必ずどこかで役に立つ。人生は思っているより長いんだよ!〟
いつもと同じように私の耳には、ちゅーちゅー聞こえているのだが、頭の中でちゃんと言葉に変換されている…。
「スーさんが、しゃべってる――…。」
〝だって、トモカは願ったでしょう?ボクと話せればいいのにって!願えば叶うものだよ。〟
そう言って、いつもと同じように小首をかしげる かわいいスーさんがそこにはいた。