ちゅーら隊発足
意外とこの街は広い。とてもじゃないが、徒歩なんかですべてを回れない。そこで、まず初めに考えたのは、私がよく行くエリアを中心に、エリアを作っていくことだった。
スーさんと話し合って、各エリアに先ほど集まってくれていた ねずみさん達にグループを作ってもらい、引っ越しをしてもらう事になった。
その時、彼ら、彼女らが住むのが空き家なので、スーさん経由で場所を把握すれば、あとはカギを使えばいつでも行けると言う計算だ。
「各エリアに名前を付けないと、どこに悪い人たちがいるのかわからないよね…?」
〝ちゅ、ちゅ〟
スーさんが地図を指さしたあと、壁に目を向ける。私も同じ動作を繰り返すと――― あら不思議、プロジェクトマッピングのように壁に巨大な地図が、そしてさらに驚いたことに、世界樹のそばには数えきれないほどの点が密集しており、少し離れた八百屋の方には、6個の点が固まっていた。
「これもしかして、私が認識してる人や物にマークがついてるの?」
〝ちゅ〟
それにしても、すべてのねずみにマークがつくと、それはそれで困ったことになる…。私が頭を抱えていると、スーさんに呼ばれて8匹のねずみが窓枠にあがってきた。
〝ちゅちゅ〟
スーさんが何か言うと、そこに並んだねずみが頭を下げた。私も思わずペコリ… すると、先ほどまで埋め尽くしていた点が10個になった。
「もしかして、この子たちが各エリアのリーダーなのかな?」
〝ちゅ〟
言われてみると、スーさんよりは小さいが、ねずみにしては大きい個体ばかりだった。改めて、よろしくと声をかけると、なんだか、うれしそうな雰囲気が伝わってきた。
そういえば、もし普通のねずみに遭遇した時、気づかずにお願い事なんてしていたら、変な人に見えるので、敬礼を教えてみた。
「こうやって、指をそろえて瞳と額の間に… そうそう、了解しましたって合図として、こうしてもらっていい?」
私が、そう言うとさっそく並んでいた8匹が、胸を張って敬礼をしてくれた。かわいい――
「コホン、それでは、本日より発足した【ちゅーら隊】各エリアの隊長たちに、任務を言い渡す。速やかに各エリアに分布し、居住を整え、通路となる扉の報告。各班交代で街のパトロールを開始してもらう。危険と判断したら、深追いはしない事。命大事に!を合言葉に、諸君らの活躍を期待している。解散。」
〝〝 ちゅ‼ 〟〟
あぁ、一度は言ってみたかったセリフが言えたことに悶絶している間に、先ほどまであれだけいた、ねずみ達は一匹も見当たらなかった。
〝ちゅ〟
「そうだね。あとは任せるしかないから、今日はもうお風呂入って寝ようかな…。」
そうして、明日からの忙しくなるであろう日々に備えることにした。
次の日から大忙しだった。おもにスーさんが… 連絡係のねずみが来ても、私にはさっぱりだったが、その代わり地図はなんだか、すごいことになっていた。
しかし、忙しくなると意気込んでいたのに、思わぬ肩すかしにゴロゴロしていたのだが、忙しくしているスーさんを見ていると、居たたまれなくなってきた。
「あッ!そうだった。もらった捕縛ヒモに、魔力でも補充してみよう。」
いそいそとクローゼットに直しているローブを取ってきて、広い場所に移動して中身を広げてみた。触った感触は、まんま荒縄だ。でも、今まで魔力なんて意識したことないから、どうやって補充するかもわからない…?
しばらく握ったり、パワーと声を発しながら手のひらをヒモに向けてみたりしたが、恥ずかしいだけで何の変化も起きなかった。恥ずかし損だったので、しばらくふて寝していると変化が現れた…。
寝ていた耳のそばで、シュルシュル音がする。何だ?と思い体を起こすと、ヘビが…… ヘビのご飯って冷凍マ〇スだった気がする――… その瞬間、私は飛び起きてとっさにスーさん達を背にかばった。
「スーさん、ヘビ!ヘビ! みんな食べられちゃう。逃げて‼」
その時の私はパニックだったので、そばにある棒のような物を探し、ないと分かるとキッチンに飛び込んで、お玉で応戦していた。
「私の家族を食べないで。」
心拍数が上がり、ふーふー言っている私の肩に、スーさんが登ってきて、耳たぶを引っ張りながら、よく見ろと〝ちゅ、ちゅ〟言っていた。少し冷静になりよく見てみると、それは先ほどまで私が触っていた、捕縛ヒモだった。
いっきに気が抜けて、膝から崩れ落ちた。しかし、自分の慌てぶりに自分でウケてしまい、久しぶりにお腹を抱えて笑い転げた。
「はぁー笑った。疲れた…。」
いつの間にかスーさんは仕事に戻っていた。勝手に動いたことも気になるし、使い方も解らないので、私はナズナに聞きに行くことにした。昼間だから許してもらえるだろう。聞き終わったらすぐ帰ってくるし!
私はスーさんに行先と、目的と、すぐ帰ってくることを伝えて玄関へと向かった。そして、なぜかついて来る、大量の捕縛ヒモ……。えッ、もしかして、これ連れて歩かないといけないの?そんなことを思いながら八百屋へと向かったのだった。