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予期せぬ休暇

「トモカ、しばらく夕方来なくていいから。」



スズシロにそう言われた私は、



「くッ、クビですか…?」



突然のことに頭が真っ白になった――。



「えッ、違うよ!実は今、この街で強盗事件が起こっていてね。危ないから、仕入れの時間を昼間にしばらく変えることに昨日決まったんだよ。ごめんね。1週間ぐらいお休みだと思って羽を伸ばしてね。」




私はここ以外 特に行くところがないので、この生活に慣れた今では1週間も休みなど、ヒマすぎてどうにかなってしまう…。強盗、許すまじ――。



「この街って強盗を捕まえるようなお仕事の人たちっているの?」



荷物を店に運び込み、仕分けをしながら問いかけてみると、みんな小さな体でテキパキ動くので初めの頃は、聞こえているのか不安だったのだが、案外みんなちゃんと聞いてるみたいで、一番側にいる人が私の疑問を解消してくれる。



「もちろんいるぜ!」



今日はセリが答えてくれた。



「自警団と、騎士団だ。騎士団は国に籍を置いていて、自警団は街が管理してる。はじめに動いてくれるのは自警団で、それでも問題が解決しなかったら騎士団が動く感じかな~。」



しかし、セリの話によると、この街は女性や老人、小人族が割合的には多いみたいで、自警団に所属している人の人数が少ない…、それにより、今回の様な強盗、窃盗、よその街から逃げてきた殺人犯など、割と頻繁にあるらしい――。



「国は、この事態をどうにかしてくれないの? 騎士団を常駐(じょうちゅう)させるとかさ…?」



「騎士団も、厳しい訓練を勝ち抜いた先鋭だから、人数が多くないんだよ。それに、そもそも騎士団が守るのは街じゃなくて、世界樹だから。」




平和な国から来た私とは、違う感覚で生活しているみんなのたくましさを見た。



「みんな自分たちで捕まえようとか、そういう道具? とかないの?」




日本だって防犯のために、そこら中にカメラがあるし、防衛のための道具も販売されている。女性や老人が多いなら、なおの事 便利な道具が数多くあるはず。




「むかし、道具屋のおやじさんが捕縛(ほばく)ヒモって名前の商品を作ってたんだけど、魔力を使いすぎるから誰も活用できなくて、お蔵入りしてたな~。」



魔力を大量に使う捕縛ヒモ… 私使えるんじゃないかな? 私の中にある考えがグルグルと駆け巡っていた。セリの説明に付け足すように横からアサが、



「それなら、野菜縛るのに使ってくれって、たくさんもらったけど、必要なかったから、倉庫に入ってるわよ。」




「そのヒモ、もらってもいい?」



「いらない物だから、持って行ってくれると、むしろ助かるわ。ちょっと出してくるから、待っててね。」



しばらくすると、アサ、コグサ、スズシロがそれぞれ箱を抱えて戻ってきた。



「これだけあるけど、全部持って行く? いる分だけでもいいわよ。」



せっかく持ってきてくれたので私はすべて持って帰ることにした。実はいつも着ているローブ、胸の所とは別に三か所ポケットがある。それも、物理法則ムシだ。なぜか胸ポッケだけは、ただのポケットなのだ。スーさん仕様、さすがファンタジー。




「それじゃ、今日はもう終わり。本当は夕飯も一緒にって言いたいんだけど、何かあったらイヤだから、これ持って帰ってスーさんと一緒に食べてね。」



そう言って持たせてくれたのは、大きな葉に入れられたおかずと、不思議な水袋のようなものに包まれたスープ、パンも持たせてもらった。こんなにもらえない と言ったのだが、アサとナズナに押し切られた。



「ふふッ… ここは素直にありがとうと、受け取った方がいいよ。この2人は言い出したら聞かないからね。それじゃ、来週まで会えないのは淋しいけど、休みを満喫してね。トモカ、また来週。」




スズシロを筆頭にみんなに見送られ、私は世界樹の家へと帰ってきた。



「1週間… ご飯どうしよう…。」



それこそ野菜はお給料が出た時に、仕入れ値でいいと たくさん買っているのだが、肉や魚はアサたちの家でしか口にしていない。パンも、チーズも… 野菜や果物以外の物はあそこでしか食べていないのだ。



「地図はもらったけど、実際行く勇気なんてないもん。あぁ~1週間長いよ~。」



愚痴をこぼしていると、どこから入ってくるのかは不明だが、スーさんが帰ってきた。



〝ちゅ〟



「スーさん、おかえり。」



働き始めの頃は、スーさんも一緒に行っていたのだが、慣れてきた頃に、徐々にスーさんが一緒に行く回数が減っていき、今ではほぼ別行動なのだ。どこで何をしているかは知らないが、私もこのくらいの距離感が心地いいので助かっている。



「スーさん、聞いてよ~。今、街で強盗が頻発してるらしくて、1週間 昼間に仕入れに行くことになったから、私お休みだって…。でも、強盗が捕まらないと、いつまでこの状態が続くかわからないんだよね。もういっその事 私が強盗 捕まえてこようかな…。」



私のライフスタイルを乱す敵に対して、私がそうこぼすと、



〝ちゅ、ちゅ、ちゅ〟



スーさんが、自分の胸元をとんとん叩きながら、テーブルに仁王立ちした。



「スーさん、手伝ってくれるの?」



そう尋ねると、もちろんだと言う様にさらに胸を張った。




「でも、スーさんと私の二人だけって、私が足を引っ張る未来しか見えない…。」



ハッと我に返り、現実を見ると、とても出来るような気がしなかった。しょんぼりしている私にスーさんが机から降り、来い来いと服の裾を引き、窓際に連れて行く。



「どうしたの?」



寝室にある窓を開けるよう指示されたので、その通りすると、 スーさんは窓から外に向かって長く鳴いた。決して大声だったわけではないのだが、不思議な響きが森に向かって放たれた。



「えッ、えッ、どッ、どうしたの‼ スーさん?」



〝ちゅ、ちゅ〟



まぁ、待てという様に、私の手をポンポンと叩くスーさん。しばらく、夜の闇が下りホタルのような光がほわほわ泳いでいる下、初めは草むらに隠れて見えなかったが、世界樹のすぐ下 土がむき出しの場所に

それらは終結した。



闇の中に怪しく、赤い瞳だけが光っていたのだが、目が慣れてくると全貌が見えてきた。それは、スーさんより一回り小さめの、ねずみ達だった。その数、見渡す限り…。いったい、どのくらいいるのか予想もつかない。



〝ちゅ、ちゅ〟



スーさんが、集まってくれたねずみ達に何か言っている――― ように聞こえる。

私には、ねずみ語は理解できないので、あくまでそう見えているだけだ。だが、この景色を見て私は、いけるかもしれないと、どこかで確信していた。




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