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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

玩具の國のアリス【狗】

作者: 誘宵空蘇

以下についてご注意を。

【そこはかとなくBL】

【三月兎がひたすら気持ち悪い変態】

【時計兎の影が薄い】

【不思議の国要素まるでなし】

【戦闘シーンがグロいと友人に言われた】

よろしければお楽しみください。




あくびをしながら、ロングコートを揺らし青年が歩む。等間隔に並ぶ窓からは白い光が差し込み、黒い廊下を照らしていた。彼の長い髪も光に晒され、黒く艶やかに光っている。長い廊下はひとつの部屋に続いていた。扉の前で立ち止まり、ノックしようかしまいか刹那迷ってしないことに決定、扉を開ける。

 「お呼びですか、アリ…スぅぅ!?」

黒と白の部屋。この館にある部屋は大体この配色だ。シンプルながらも高価そうな家具より先に目につくのは、美しく愛らしい少女だった。

室内と同じ色合いの、いわゆるゴシックロリータの衣装に身を包んだ、下ろせば地につくのではないかと思うほど長く金の髪を伸ばした彼女は、見た目にそぐわない冷めた青の瞳で彼を睨むように見た。手には巨大な鎌、足元には青年が座り込んでいる。

 「あら帽子屋。最悪のタイミングね」

 「最良だと思います。事情説明は鎌を仕舞っていただいてからでも構いませんか?アリス」

左は黒く右は白い兎の耳を生やす青年は、緩慢な動作で帽子屋の方を見た。澱んだ紅の瞳に、手入れが行き届いていない短い銀の髪。今まさに殺されようとしているにも関わらず、彼は酷く冷静だった。

 「そろそろ面倒になってきたの。お望みなら殺してあげようと思ったのよ。私って何て優しいのかしら」

自身とほとんど同じ大きさの鎌を易々と持ち上げ、アリスは切っ先を青年の首に添える。あと少し無邪気に嗤う少女が力を加えれば、本人の意思を完全に無視して自己防衛に走る青年の体が動き出すだろう。そうなれば、絶対戦闘になる。

 「ここを潰すつもりですか」

 「何のためにこうしてると思ってんの?」

ファーとベルトで装飾されたアリスのロングブーツの爪先が、青年を蹴った。大人しく転がった青年は手足を背後で拘束されている。なるほど、これでは大して抵抗できないだろう。

 「邪魔、しないで。帽子屋くん」

 「自殺兎直々のお願いよ。血を見たくないなら退室しなさい、帽子屋」

 「僕が悪いみたいな役回りになってません?アリス、彼はまだ使えます。拘束を解いてください。時計兎はこちらに」

 「つまらないわね」

片手を捻って鎌を消したアリスはため息をつき、時計兎の髪を引っ張って立ち上がらせると帽子屋の方に蹴り飛ばした。拘束されたままであるため、上手く足を動かすことが出来ない時計兎は帽子屋の腕に倒れ込む。

 「…生きてる…」

 「当たり前です。死ぬなら戦場にして下さい」

時計兎の懐から抜き取ったナイフで固く結ばれた縄を切り取った。白い手首には紅い痕、ズボンにはシワが寄っている。非力な少女がやったのか、限りなく謎だ。

 「本題に入っても問題ないかしら?」

 「僕たちだけが呼ばれたなら」

 「自殺兎は呼んでないわ」

 「…報告書、持ってきただけ…」

 「なんで殺されかけてたんですか」

痛くなってきた頭を抱えていると、「ここで死のうとしたから」とアリスが足元に落ちていた薄刃を踏む。間違いなく、時計兎のナイフだ。帽子屋は緑の瞳に詰問の色を宿して時計兎を見たが、彼は平然と無気力に帽子屋の腕中でだらけている。一人で立つ気すらないらしい。

 「召集をかけたのは貴方と発情兎よ」

 「三月兎です、アリ…」

ガタンと細く開いた背後の扉の向こうで、何かが倒れる音がして帽子屋は時計兎を支えたまま肩越しに振り返った。銀の長髪と、右が黒く左が白い兎の耳が微かに覗いている。あまりに時計兎と良く似た色。

 「…三月兎…」

時計兎が呟いた。ぬぅ、と扉を掴んだ細く白い指が、ゆっくりと廊下を晒していく。どこか拘束服を思わせる衣服が見え、両膝をついた青年が淫然とした紅い瞳で帽子屋と自身の兄を見上げた。

壁に手を当ててふらふら立ち上がった三月兎は、毒花の美貌に不快を滲ませる。アリスはそれ以上に不機嫌だった。

 「…へぇ、帽子屋さん、俺のことは抱いてくれないくせに、兄さんなら相手にするんだ?」

 「どちらも相手にしません。時計兎、一人で立てますか?」

 「俺だって立ってるの辛いんだけど」

妙な色香を漂わせながら、三月兎が髪を掻き上げる。いい加減苛立ったのだろう、執務机に手と足を組んで座ったアリスが黒檀の机を蹴った。大きな音に帽子屋が驚き、兎の兄弟は面倒くさそうに主の方を注目する。

 「邪魔が一つ居るけど本題に移るわ。色狂いと死にたがりは今度口開いたら真っ二つにするわよ」

寧ろ本望だと云う風に言葉を発しようとした時計兎の口を手で塞ぎ、三月兎には絶対に喋るなと目で訴えた。肩を竦めた彼は、閉めた扉に背を預けて黙る。

 「第4地区でトランプが暴れてるらしいわ。報告によると、スペードですって」

 「スペード、ですか」

また厄介な。帽子屋がため息をつけば、相変わらず離れようとしない時計兎が見じろいだ。距離は変わらない。

 「快楽殺人のスペードよ。帽子屋、発情兎が発情しないように見張ってなさい」

 「…ボクでもいいのに…」

 「貴方はこれから一仕事あるの」

 「そうそう。兄さんに帽子屋さんはあげないよ」

どちらも断りたいんですけど、それ以前に真剣に三月兎と任務に行くの嫌なんですけど。心の中で叫ぶも、アリスの決定は何があっても揺るがないため、帽子屋は諦めて乾いた笑い声を短く発した。

 「ワンダーランドの名と名誉のために、行きなさい」

 「…嫌になったら、殺していいから…」

 「兄さんのことを?」

 「馬鹿兎二匹をでしょ?」

 「二人とも黙りましょうね。アリスは武器出さないで下さい!」

前途多難すぎる。












なぜ後部座席に仕切りのようなものがないのか。三月兎の誘惑を全力で跳ね退けながら真剣に考えること一時間。カナリアがやたらと荒く運転する車に運ばれ、帽子屋たちは第4地区にやって来た。

まだ戦場になっていないところに車を止め、ハンドルに腕を重ねたカナリアは眠ってしまう。終わったら起こせ、と云うわけだ。ここで暴れてやろうか等と頭の端で考えながら、帽子屋は腰にまとわりつく三月兎を引き摺るように外に出た。

 「血と煙と火薬の匂いだね、帽子屋さん?」

 「急ぎましょう。これ以上犠牲を出すわけにはいきません」

 「あはっ!帽子屋さんって真っ面目ぇっ」

機能的な服装の帽子屋に比べ、遊女を思わせる格好の三月兎は金銀大小様々な飾りを付けた耳を揺らしながら、余裕で彼の隣を走る。両手には血色に蜂蜜色の模様が描かれた柄を持っていた。一つは真っ直ぐ、一つは緩く湾曲した双剣だ。

 「皆可愛く啼いてくれるかな?俺の方が可愛いかな?」

紅い唇を扇情的に舐める舌もまた、瞳のように紅い。帽子屋は反応することを止めて、見えてきた敵に意識を集中した。緑の制服に、黒くスペードが描かれた腕章をつける二十人ほどが暴れまわっている。逃げ遅れた者は皆、事切れているようだった。何人ぐらいが逃げられたのだろうか。何より、街中で殺戮の限りを尽くしている事が帽子屋には赦せない。

 「誰にも見えない場所でしていただきたいですね」

 「見られた方が燃えるんだよ、きっと。炎みたいに。俺はあんまり好きじゃないけど」

微妙にニュアンスが違うのだが、戦う前に疲れるのは避けたいので帽子屋は何も突っ込まないことにした。敵も二人に気づいたらしく、一般人を切り裂いていた刃を向けてくる。銃弾が三月兎の髪を掠めた。

 「ああっ!何て熱いんだろう。殺意と狂気に融けてしまいそうだよ。ねぇ帽子屋さん?」

 「……帰りたい。凄く帰りたい…」

先に敵陣に突っ込んだ三月兎がスペードの一人の首を撥ね飛ばす。

 「あははははっ!」

快楽殺人を行っているのが三月兎なのかスペードなのか、帽子屋には分からなくなっていた。恐らく両方なのだろう。

多勢に無勢の中、素手で戦えるわけがないので帽子屋も両手に武器を産み出す。切れ味の良いワイヤーで繋がった、長大な針に似た武器だ。専用の手袋を嵌めてから使わないと、帽子屋の手も一瞬でワイヤーに殺られる。

 「アリスの命令は常に殲滅なんです。覚悟は…出来てますよね。これだけ殺したんですから」

辱しめられた女性と少女の遺体を蹴り飛ばしたスペードの体を針が貫く。瞬間、針からまた針が生まれ男の体内で爆発するように広がった。内側から串刺しにされた男の隣、驚愕にたじろいだスペードの首から上は三月兎が細切れにする。

ワイヤーを操り、元に戻った針を引き抜いて遠心力を利用、横合いからボウガンで帽子屋を狙っていたスペードの頭から剣山が生えた。三月兎が恍惚とした声で笑っている。時計兎をアリスの乱心から救った身としてこう云うことを思ってはならないのかもしれないが、帽子屋は少し本気で三月兎を抹消してみようかと思案した。

 「あはは。やっぱり俺が一番可愛く啼けるよ、帽子屋さん」

 「…スペードの騎士すら来ませんでしたか。これではアリス、立腹するでしょうね」

 「血に濡れた帽子屋さんもすごく綺麗。でも、元の白い帽子屋さんの方が綺麗、だよね」

蠱惑的に、淫靡に甘えた声を出して。

 「ねぇ、今から血を拭ってあげようか?」

武器を消した左手で、まだ針を握る帽子屋の右手を捕まえて露出した腕に三月兎は舌を這わせる。全身に悪寒が走った帽子屋は出来るだけ自然に、しかし素早く魔の手から逃れた。

 「帰りましょう。このことをアリスに報告しなければ」

物足りなさそうに声を上げた三月兎を無視して、彼はカナリアが眠っているであろう車への道を急いだ。











部屋に入ると、少女はぞんざいに椅子に座って爪を磨いていた。

 「ただ今戻りました、アリス」

 「帽子屋、発情兎はどうしたの?始末しちゃった?」

 「してません」

くすくす、アリスは笑いながら椅子を回転させ、テーブルに肘をついて指を組み合わせる。

 「三月兎なら、時計兎の部屋ですよ。呼びますか?」

 「要らないわ。そう、この前振りと同じくらい要らない。帽子屋。言いたいことがあるなら率直に述べなさい?」

全てを見透かすアリスの大きな瞳。今さら驚くことでもないと判断し、帽子屋は一歩を踏み出した。

 「まずは報告です。あの場で暴れていたのはトランプの最下位者たちでした。騎士どころか王位の者も出てきません。本件については関与していないのでしょう」

トランプには四つの種類と地位がある。種類とはすなわちハート、スペード、ダイア、クローバーであり、地位は上から王位、騎士だ。他にもあるのかも知れないが、少なくとも帽子屋はこれ以上の知識を持ち合わせていなかった。

大抵の事件は騎士もしくは王位の意思により起こされるのだが、ごく稀にそれより下の者が暴動を勝手に犯すことがある。今回はそれだったと云うわけだ。

 「アリス、君は全部分かっていましたね?その上で、私と三月兎を鎮圧に赴かせた。何故ですか?」

 「愚問ねぇ」

美しい、純度の高い邪悪さを隠しもしない微笑で。

 「発情兎も自殺兎も、果ては貴方さえも愚かだからよ。誰も何にも気づかない。知らない振りをしているわ。まるでピエロみたいにね。」

 「…なんのことか…」

 「自殺兎は貴方を気に入っている。発情兎は貴方を好いている、振りをしている。貴方はこの二点に気づいていながら、知らない振り。ねぇ、一番残酷なのはだぁれ?」

帽子屋は何も答えない。何か言わなくてはと思うのだが、思考が空回りしていた。

 「私が与えたのは、三人が何かに気づくための時間と関係と距離よ。自殺兎は貴方たちが居ない間、死のうとしなかったわ。なぜ?発情兎は兄以外の誰かの前で、本当に発情していたかしら?帽子屋が何にも気づかないのは真実?嘘?」

アリスが放つ言葉の一つ一つが帽子屋の心をゆるゆる抉っていく。自分の得物である針が刺さったような感覚に、目眩と吐き気を覚えた。

 「気付けないのはその気がない、もしくはまだ気付くことが出来るほど時間が経っていないからよ。貴方はどちらかしらね?」

高らかなアリスの笑声が、いつまでも耳に貼り付いて離れない。目に見えない、例えば言霊のような何かで縛られている気分だった。








ワンダーランドは不思議の国を守るもの。傲慢アリスが治める組織。

不思議の国を壊すトランプを壊すためにここに在り。

佳麗アリスは退屈嫌い。新しい遊びを思いついては、今日もワンダーランドを引っ掻き回す。







本当に何となくで始めたなんちゃってアリスパロ【玩具の國のアリス】。読みきり連載にしようかと思っていますが、そんなに時間があるのかと←

まぁ頑張ります。


ここまで読んでいただきありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[一言] こういうアリスパロ好きです。 三月兎の変態加減がいい味出してるんじゃないでしょうか? 連載していただけるのでしたら喜んで読ませていただきます!
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