第70話 結ばれた絆
「とも……だち……?」
「『そうです。故に私たち幻獣は、力尽きたこの子の体に宿り、命の代わりとなりました。私たちがいなければ、この子はまた死んでしまうでしょう』」
ちょっと待ってください。
そういえば以前、魔王との戦いでコペニュがすべての幻獣を召喚したとき、意識を失っていました。
てっきり召喚魔法の使いすぎで気絶したんだと思っていましたけど、あのときコペニュは、死んでいたんですか?
「『この子はこの学校で願いを叶えました。あとは、得た友と豊かな時間だけを過ごしてほしい。楽しい時間だけを……』」
「だから、起こさない……」
「『世界の命運が掛かっているのは承知しています。ですが私たちにとっては、この子の幸福が最優先なのです。あとのことは、他の方に任せます。世が再び、平和になるまで』」
そう言われてしまっては、反論はできません。
コペニュのことです、率先して戦いに挑むでしょう。
しかし相手は最凶のゼウル、死霊を操るラスカ、そして本気になった転移魔法の使い手マリト。
おそらく、魔王との戦いよりも厳しいものになるはず。
コペニュを大事に思うなら、ファースラーの意思を尊重すべきなのでしょう。
サーニャは返答できず、唇を噛み締めました。
「コペニュちゃん……」
そっと、コペニュの手を握ります。
はじめて会った日から、コペニュは友達を大切にしていました。
何度も何度も、サーニャはコペニュに慰められて、励まされてきました。
単に優しいだけじゃない。コペニュにとってサーニャは、人生で初めての友達。
かけがえのない、宝物だから。
「コペニュ……ちゃん……」
ならば、
「わかりました。コペニュちゃんがまた笑顔になれる日々を、私たちで取り戻します。これまでコペニュちゃんに頼っていたぶん、今度は……」
そのときです。ぎゅっと、コペニュがサーニャの手を握り返したのです。
「っ!」
幻獣たちによって眠らされていたコペニュが、目を覚ましました。
ファースラーも驚いている様子で、つまりこれは、コペニュの強い意思。
「ファースラー、もういいよ」
緩慢に、上半身を起こします。
「戦わせて。私も戦いたい。大好きな友達となら、もう負けない」
コペニュの視線が、サーニャへ移ります。
「守ろう。私たちの居場所を」
もう二度と、失いたくないから。
「コペニュちゃん、でも……」
「でもじゃないでしょ。私が隣りにいたほうがサーニャだって嬉しいくせに」
サーニャは抱擁でもって答えます。
メラルもコペニュと目を合わせ、頷きました。
「ファースラー、お願い」
ファースラーは長く目を瞑ると、コペニュの中へ消えていきました。
「コペニュちゃん」
「なあに? サーニャ」
「もう、独りじゃないよ」
「……」
「コペニュちゃんに何があっても、どうなっても、絶対にずっと、私がいるから。だからコペニュちゃんはもう、独りじゃない」
ありがとう。その言葉と共に流した涙は、この世の何よりも美しく、光り輝いていました。
私は当初、コペニュのことが嫌いでした。
サーニャとの友情だって、すぐに決裂すると断定していました。
ですがいまは違います。
コペニュ、あなたは誰よりも幸せになるべきなのです。
永遠に強固な絆を結んだ、サーニャと共に。




