第63話 始動
夜中にラスカが部屋を抜け出しました。
きっと悪巧みをするに違いありません。寝る前に彼の様子を伺いに行って正解でした。
ラスカは寮を出ると、別棟へと入っていきました。
塔になっている保管庫です。
いろんな魔道具が収められています。
それにしてもラスカ、わかっているのでしょうか。夜、生徒が抜け出せばすぐに先生に知らされることを。
ラスカは塔の地下へと降りていきます。
地下2階、3階、そして最深部である5階へ。
やがて、埃まみれの置物が保管されている部屋にたどり着きました。
と同時に魔法陣が出現し、青いオーラで姿を隠した『やつ』が転移してきたのです。
「ここにメラルとメイスの母親、ミリスがいるって? たしかにここが一番怪しいが、とっくにオレ様が調べてるぜ」
「だろうな。俺の狙いは調べることじゃない」
「はあ?」
「お前は上手く調べ過ぎたんだよ」
この2人、ついに本格的に動き出したようですね。
ミリス先生は、かつてこの学校で教鞭を執っていた聖女の先生です。
そして、メラルとメイスの母親。
いったい、彼女を見つけて何をするつもりなのでしょう。
間も無くして、部屋に校長先生がやってきました。
「ここでなにをしている!」
「思った通り、校長が一人できた」
「君は……新入生の……」
「魔王復活を目論んだジラーノ、彼は教員として長くこの学校にいたが、ミリスの保管場所をしらなかった。そうだろ?」
青いやつが「そうだ」と答えます。
「それほどの機密事項。知っているのは十中八九、校長だけ。決して誰にも漏らせない秘密。ならば、解き明かそうとする者がいるなら、校長自ら始末しにくる。だから俺はあえてバレるようにここに来たのさ。そして、狙い通り校長がきた。やはり、ここに「なにか」あるんだな」
「ミリスだと? 彼女は死んだ」
「死んだというのは憶測で、正確には行方不明らしいじゃないか。この学校で、消えている」
「……目的はなんだ」
「すべての魔法使いを殺す。それだけだ」
途端、部屋に複数の人影が出現しました。
ゆらりゆらりと、ラスカの周囲に集まっていきます。
「誰かに取り憑かせなくとも、戦わせられるレベルにまで俺も成長した」
じゃあこの人影はぜんぶ、死者の魂!?
「まさか、き、君が異常生徒事件の!!」
「あんたを殺して、その魂から直接真実を語らせる。ミリスがどこにいるのか」
簡単に殺せると思っているのでしょうか。
相手は魔法学校の校長、いくら神の力を使ったって、そう易々と倒される相手じゃないはずです。
いや、校長先生の実力は知りませんけど、きっとそうです!!
校長は目を細めると、指を鳴らしました。
しかし、とくに何か起きたわけではないようです。
「死んだところで、お前に従うわけがないだろう」
「従うさ。ジラーノで試した。あいつをクロート先生に取り憑かせたとき、最初は冷静に頭を使ってコペニュを殺そうとしていた。しかし俺の力で無理やり従わせて、暴れさせた。どのみちあいつじゃコペニュには勝てないだろうし、実験のために」
父が渡り廊下で叫んでいたのは、こいつの指示だったと?
死者を操ることもできるならば、校長先生しか知らない秘密も本人から喋らせることができます。
「そこまでやったせいで」
ラスカが袖をまくりました。
黒く変色していた腕には、ウジが沸いています。
完全に腐っているのです。
「な、なぜそこまでして……。ミリスをどうするつもりなのだ!」
青いやつが代わりに答えました。
「欲しいんだよ。あいつが持つ、世界崩壊の力」
「欲しいだと? バカな、神の力は」
「あげたり奪えたりするもんじゃないって? それができちゃうんだなー、いまのオレ様なら」
青いやつが手のひらサイズの玉を見せつけてきました。
あの玉、たしか収納玉です。いろんなものを閉じ込めておける、転移系魔法の魔道具です。
「ここに魔王が入ってる」
なんですって!?
魔王はコペニュたちが倒したはずです!!
「消滅したと思ってただろ、校長。死ぬ直前に、オレ様が魂をここに閉じ込めたのさ」
「な、なぜ……」
「魔王は魔力や魔法を吸収する。でもな、奪えるのは魔力だけじゃねえ。神の力すら、己の力にできるのさ。知らなかっただろ?」
その魔王の特性を利用すれば、神の力を奪えるのでしょうか。
だとすれば、なんと恐ろしい。
そうか、青いやつはこれを使って、誰かから奪った神の力をラスカに与えたのですね。
「一度完全に目覚めて、元気いっぱいの魂じゃなきゃ意味ねえから、ジラーノを使って復活させたわけだ」
そしてそのせいで、私が殺された。
「くっ、ラスカくん! 彼から離れるんだ、君はまだやり直せる!!」
「お喋りはお終いだ!!」
霊魂たちが一斉に光弾を発射しました!!
が、すべて校長に直撃する前に消滅してしまいます。
ラスカが眉を顰めます。
「防衛魔法か?」
青いやつがヒヒヒと下品に笑いました。
「ちげえよ、体質だ」
「体質?」
「校長は、あらゆる魔法を打ち消す体質なのさ。魔法でも神の力でもねえ。正真正銘の、特異体質。だからオレ様は加勢しねえぜ。相性が悪いからな」
魔法が効かない。な、ならこの勝負、はなから勝ちが見えているのでは??
と期待したのですが、
「いや、加勢してもらう。武器をだせ」
「なるほどな。たしかに体質を除けば、校長はただの魔法使いだ。数で押せるぜ」
転移魔法の魔法陣から、槍や剣が放出されます。
ラスカに操られた霊魂たちが、各々武器を手に取ります。
魔法が通用しないなら物理攻撃で。くっ、なんてやつですか。
校長も、顔を歪めています。
そして、
「真実を知ったところで、お前たちには何もできやしない」
な、なにを言い出すんですか!!
まさか諦めちゃったんですか?
「どういう意味だ」
「私ですらどうすることもできないもの。決して、その痕跡すら、お前たちが目にすることはない。無駄な努力だ!!」
途端、青いやつがニンマリと笑みを浮かべました。
「おっさん、さっきから時間稼ぎをしているな」
「……」
「無意味だぜ。もうわかった。お前の時間稼ぎが、答えを示した!!」
え? え?
どこに答えがあったのですか??
「大司教」
校長が目を見開きます。
「あいつが持つ神の力だな」
「なっ!?」
「となれば、神殺しの槍が必要だな。ククク、喋りすぎたな!! サンキュー、おっさん!!」
青いやつが転移魔法で消えてしまいました!!
な、なにがどうなっているのかわかりませんが、ピンチの予感です。
こんなときコペニュはなにやってるんですか!!
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コペニュの部屋に行ってみると、1匹のネズミが、人間の言葉でコペニュとサーニャに校長のピンチを伝えていました。
なんでしょうこのネズミ。まさか校長先生が指を鳴らしたのは、このネズミをコペニュたちのもとへ放つ魔法だったのでしょうか。
コペニュとサーニャが顔を合わせます。
「塔の地下5階」
「行こう、サーニャ!!」




