♡第57話♡ コペニュVSモテモテイケメン教師!!
この学校で最もモテるのは誰なのか。
毎年夏も半ばになると校内ランキングが発表されます。
生徒だけでなく先生を含め、ルイツアリアで一番の人気者を決めるのです。
順位は1位から10位まで。ちなみに私は優等生でしたので、生きていた頃、つまり一昨年のランキングでは6位でした。すごいでしょ。
「む〜、なんで大天才様の私が8位なのよ」
コペニュが廊下に貼られたランキング表を睨んでいます。
クソガキちゃんのくせに8位に入れたんだからありがたく思いなさい。
ちなみにこいつ、昨年は7位でした。下がってますね。
「マリーくんが9位。メラルちゃんが7位。並んだね! 私は……ランキング外だけど」
マリトは男性票が多かったようですね。
メラルは凛としながらも、保健室でみんなを癒やす女医さんでもありますから、必然的に人気が高くなるのも頷けます。
ちなみに10位はゼウルです。意外ですよね。
悪っぽい感じが女子に受けてるみたいです。何人も人を殺してる殺人鬼なんですけど。
「あ、見てよコペニュちゃん。メイス先輩、今年は2位なんだね。去年は1位だったのに」
一昨年も1位です。
「このパーニアスを差し置いて1位になったやつはどこのだれよ。なになに……クロート? 誰それ? サーニャ知ってる?」
「今年から赴任した先生だよ。防衛魔法の授業を教えてる」
「ほーん。んじゃあこの学校にいる歴は私の方が上じゃん。後輩のくせに生意気じゃんね」
「え? どういう意味?」
私にもわかりません。無視しましょう。
いったいどんな先生なんでしょうね、クロートとやらは。
よっぽどのイケメンなのか。
そのとき、校内放送にてコペニュが体育館に呼ばれました。
そんなところに呼び出すなんて、いったいどこの誰でしょうかね。
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2人が体育館に訪れると、スラリとした男性教師が立っていました。
爽やか系のイケメン先生です。もしかして、この人がクロート先生なのでしょうか。
「やあ、君がコペニュちゃんだね。噂には聞いているよ。そっちは……サーニャちゃん、だったかな? 僕はクロート。よろしくね」
「あんたが私を差し置いて1位になった新参者ね。私に何のようなわけ?」
「前々から君に会いたかったんだけど、今年赴任したばかりで忙しくてね。少し強引な手を使ってしまった。……うーん、それにしても噂通り、可愛い。才能がオーラとして溢れ出ているよ」
「ふふふん。とーぜんでしょ、だって私、パーニアスだもん♡」
なんですかこいつ。急にコペニュを褒めたりして。ロリコンなんですか?
「サーニャちゃんも、頑張り屋で将来性がある子に見えるね」
「そ、そうですか? えへへ……」
「2人は仲良しなのかい? この学校一の名コンビって感じがするね」
コペニュとサーニャは顔を合わせると、嬉しそうに笑みを浮かべました。
なんか……怪しいですね。死人に取り憑かれているようには見えないですけど、裏がありそうです。
とそこへ、一人の女生徒がやってきました。
コペニュたちと同じ2年サーモン組の、物静かな子ですね。
「クロート先生、昨日渡し忘れた宿題、持ってきました」
淡々とした口調です。声も小さいし、元気がないように聞こえます。
「はい、ご苦労さまです。めんどくさくても、ちゃんとやりきって偉いですね」
「……はぁ、どうも」
「おや? なにか気に障るようなこと言っちゃったかな?」
「すみません。私、感情がないんで、いつもこんな感じなんです」
「そう。1+1は?」
「え? は?」
「ふふ、今、『なんでそんな質問したんだろう』って疑問を抱いたよね。その疑問こそが、感情の芽生えなんじゃないかな」
「……キュン」
待て待て待て待て。
待て待て待て待て待て待て待て待て。
なんかおかしくない? 怒涛のテンポで人間には理解不能な会話が紡がれてない?
話の途中で足し算の問題だされて抱いた疑問は『なんでそんな質問したのか』じゃなくて、『なんだこいつ急に頭狂ったんか』だからね?
1億歩譲ってクロートの理屈を飲み込んだとして、女生徒ちゃん簡単に惚れすぎだろ。なんでキュンとしたんだよ。どこにキュンとしたんだよ。
感情ありまくりじゃないかよ。
じょ、女生徒ちゃんは顔を真っ赤にして去ってしまいました。
こ、これが校内一のモテモテ野郎の力……。
魔法を使った様子はありませんし、本人の実力なのでしょう。
「せんせー良いやつじゃん。気に入った! ね、サーニャ」
「う、うん!」
「あはは、大天才と頑張り屋の子に認められて、嬉しいなあ。……ところでコペニュちゃん、君、前にどこかで会ったことある?」
「いや、会ったことないよ」
新手のナンパか。
とそのときです!
「ま、待つんだコペニュくん!」
体育倉庫から、ボロボロの校長先生が飛び出してきたのです!!
手錠をかけられ、口元には外れかけたガムテープがくっついています。
拘束され閉じ込められていたようです。
「そいつは危険だ! 耳を貸すんじゃない!!」
「これは……どういう状況?」
「彼は、君たちを取り込もうとしている。すべては、この学校を支配するために!!」
コペニュが訝しげにクロートを睨みました。
先程まで爽やかだったクロートの目つきが、反抗期なりたてかってくらいに悪くなっていました。
「チッ、バレちまったか。優秀な駒が手に入ると思ったんだが」
「学校を支配するってどういう意味?」
「そのままの意味さ。俺は、他人が求める言葉がわかる。言われたい言葉、欲している言葉が手に取るようにわかるのさ。それが俺のとっておきの魔法、『心馳せ魔法』。これで相手の好意を引き出し、俺を好きにさせるのさ」
な、なんておそろしい魔法なのでしょうか。
人の懐に入るのに適しすぎてます。
洗脳系じゃないので、格上相手にも通用するのが最大の強み!!
これで仲間を増やして、学校を乗っ取るつもりだったんですね。
「由緒正しき歴史ある学校。学校中の人間に慕われて、僕が頂点に立つ!! 校長先生になるのだ!!」
「残念だけど、種明かしされちゃった以上、その野望は打ち砕かれたよ。どうするせんせー♡ せんせーのことは好きだけどー、この学校の帝王は私なんだよね♡♡」
「くくく、それはどうかな」
「現れよ、ファースラー!」
おなじみの怪鳥召喚です!
そんなやつ秒でポコパンしちゃってください!!
「ファースラー、火球攻撃!!」
「……美しい羽だ」
「?」
ど、どうしたことでしょう。ファースラーの動きが止まってしまいました。
「それに芸術的なクチバシ。わかるよ、クチバシの付け根から先端にかけての緩やかな曲線。これが君の自慢なんだね。エロい、素晴らしいよファースラーちゃん。こんなに可愛い鳥ははじめてだ」
「ま、まさかファースラー!」
ファースラーの頬が赤くなりました。
そんな、こいつ、幻獣すら虜にしやがったんですか!!
「ちょっとファースラー、なにぼーっとしてんの!!」
ファースラーは頬を赤らめたまま、視線を落としては何度もクロートをチラ見をしています。
うぶな女の子かよ。
「くくく、ファースラーちゃんは僕を好きになったみたいだね」
「こうなったら……サードスター!!」
今度は雷を纏った銀狼を召喚です!
「やっちゃえ!!」
「……毎回大変だね、サードスターくん」
サ、サードスターの動きがピタリと止まってしまいました。
「コペニュの相棒枠はファースラーで、最強枠はマーハで、君の役目は雑魚専の、噛ませ犬。辛いよね」
確かに……サードスターっていまいちパッとしないですよね。
雷属性の狼って、一見かっこいいんですけどね。
あ、サードスターの瞳から涙が。
「ちょっとサードスター! 戦いなさい!!」
「無駄だよ。サードスターくんは、悩みを共感してくれる僕を好きになった。攻撃はできない。君のサードスターへの扱いが悪いせいさ」
「登場回数一番多いでしょサードスター!!」
人間、幻獣問わず、相手の望む言葉を察する。
これが心馳せ魔法の恐ろしさ。
い、いったいこんなの、どうすれば……。
「コペニュちゃん、どうして僕と戦うんだ? 僕は確かに学校の頂点に君臨したい。でもね、それは君のためでもあるんだよ」
「はあ?」
「いまの学校は、天才で可愛すぎるコペニュちゃんへの評価が低すぎる。僕が全生徒に指導する。大天才コペニュちゃんを崇め奉れってね」
「……キュン」
ちょいちょいちょい。
嘘に決まってるでしょそんなの。
「せんせー♡ 私のためにそこまで……」
まずいです。コペニュのほっぺも赤くなっちゃいました。
恐ろしい、恐ろしすぎます。
こうなってしまっては、どうやってクロートの野望を打ち砕けばいいんでしょうか。
みんなが愛する学校は、こいつのものになってしまうのでしょうかあああッッ!!
と、
「うぐっ!」
クロートが倒れてしまいました。
何事でしょう。
あ、クロートの背後に魔道具の警棒を持ったサーニャがいます。
もしかしてサーニャが?
「サ、サーニャ。背後からって……」
「だ、だって、このままだとコペニュちゃん、クロート先生のこと好きになっちゃいそうだったから……」
「えー、嫉妬しちゃったのー♡ サーニャってばかわいー♡♡ キュン♡♡ キュンキュンのキュン♡♡」
「だ、だってえ!」
あ、え?
女の子同士の間に入ろうとしちゃいけないってオチですか?
「私の校内ランキング1位はサーニャだよ♡」
「わ、私だって、コペニュちゃんが1位」
「えへへ」
は? なんだこいつら。
ラブラブもここまでくるとなんかムカつきますね。
クロートがふらつきながらも立ち上がりました。
まだやる気なんですかね。
サーニャが睨むと、クロートは退きました。
「ま、待て待て。わかったわかった。お、女の子に殴られたのははじめてだ。ショックでしばらく立ち直れそうにない。それより……コペニュ」
「なに?」
「思い出したんだ。やっぱり僕は以前、君に会っている。旅行でズズギの街に訪れたときに」
「……」
「君はレストランの一人娘だった。とても内気で臆病な子だった」
コペニュの過去話なんて、はじめてですね。
てか昔のコペニュは、いまと違って静かな子だったんですね。サーニャみたいに。
意外です。
あれ? でもズズギって確か、もう存在していない街じゃなかったでしたっけ?
ていうかコペニュって山育ちの山ガールじゃなかったんですか? 本人も言ってましたよね?
サーニャがコペニュを一瞥します。
当の本人は、硬直したまま、じっと話を聞いていました。
「ズズギは5年前、国と国の戦争に巻き込まれて消滅してしまった。だがコペニュ、君は無事だったんだね。お父さんとお母さんは?」
「……」
どうして黙っているんでしょう。
コペニュ、あなたはいったい?




