♡第48話♡ 乙女の巡り合い
お昼休み、キリコが一人で廊下を歩いていました。
サーニャと危険生物駆除の授業を受けた新入生です。
魔力が暴走してしまうコンプレックスを抱えた、クールな子でもあります。
食堂でも一人でしたし、まだ友達はできていないようです。
「カレー、飽きたな。明日は……」
とブツブツ独り言を呟いていると、
「遅刻しちゃ〜う!!」
廊下の曲がり角から、セーナが飛び出してきたのです。
1年生の聖女で、コペニュやアロマのような小さい子を愛しているヤバメの女です。
2人はゴッツンしてしまい、尻もちをついてしまいました。
「いたっ、ちょっと、前を見て!!」
「ご、ごめんなさい!!」
互いに立ち上がって、相手を確認します。
黒いローブを着たセーナに、キリコは眉を潜めました。
「聖女……」
聖女として生まれなかったことで苦悩してきたキリコにとっては、本物の聖女と相対すのはバツが悪いようです。
「あ! 魔法使いさんですか!! 私、セーナです」
「え? あ、えっと、キリコ」
「キリコ? キリちゃんですね!!」
「キリちゃん?」
「おんなじ1年生ですか? 出身はどこですか?」
「……なんで答えなきゃいけないの」
唯一神信仰の総本山で、嫌いな故郷。
口にも出したくないのでしょう。
なんだか鬱陶しい相手。このままだと質問攻めにされそう。
とでも思ったのでしょうか、今度はキリコが問いました。
「あんたこそどこなの」
「タイロンです!」
「え……」
タイロンといえば、伝説の魔法使いアリア様誕生の地。
魔法使いの聖地じゃないですか。
魔法使い連盟の本部もここにあります。
キリコの故郷、クアークとはまさに正反対。タイロンでは聖女はなんの価値もありません。魔法使いだけが人々の羨望を集める存在なのです。
「そ、そうなんだ……」
絶対に差別されていたはず。なのにこれほど明るいのは、よっぽど優れた神の力を持っているのでしょうか。
「あんた、なにができんの?」
「神の力ですか? 枯れた花を元気にできます!! 一本だけですけど、えへへ」
「ふーん」
正直、しょぼいです。
魔法なら、たくさんの花を一斉に元気にできます。
「嫌じゃなかった? 地元」
「うーん、私は凄くない聖女だから、いろんな人に笑われたりバカにされたりしましたけど、でも、嫌いじゃないです!! 理由は……生まれ故郷だから? わかりません!!」
どうやらセーナも、故郷では周りから見下されていたようですね。
どことなく似ている。でも、正反対。
キリコの瞳が、セーナを捉えて離しません。
「あ、そういえば遅刻って……」
「そうでした!! 昨日夜遅くまで勉強したせいで、さっき起きたんです!! 急がないと〜!!」
セーナは両手をあげて、慌ただしく走り去ってしまいました。
消えていった方向を、キリコはじっと見つめ続けています。
「セーナ、か」
同じ頃、別校舎の窓から、セーナを眺めていた者がいました。
これといった特徴のない、普通の男子生徒。
ラスカ、それが彼の名です。
私は、彼が不気味でしょうがないのです。
あの日から。




