♡第23話♡ 第一の刺客登場!!
それは放課後の校舎をふよふよしていたときのことでした。
ふとメイスを見かけたので興味本位でついて行ったところ、2年生の教室へと入っていきました。
そこにはなんと、あの快楽殺人者のゼウルが、苦悶の表情で椅子に座って机を睨みつけていたのです。
どうやら学生らしく課題をこなしているようです。
「おや、君が残っているなんて珍しいな」
「あ? 宿題残ってんだよ。さすがに留年はしたくねえし」
「ふふ、さすがの異端児も宿題には勝てないか」
異端児……戦場に赴いてまで強者と戦いたがる異常な戦闘欲と、一つの魔法を誰もなし得なかった領域にまで昇華させたことを意味して、そう呼んでいるのでしょうか。
「おめえこそ何しに来たんだよ」
「日直なんだ。忘れ物がないかチェックしている」
「……」
「……」
2人は急に黙り込んで、互いに見つめ合いました。
何秒も、何十秒も。艶めかしく、切ない眼差しで。
視線だけで愛撫しているような情熱が、瞳に宿って燃え上がっています。
その瞬間、2人の間に魔法陣が出現し、マスクをしたメイドが3名現れました。
「出やがった」
彼女たちを、メイスがなだめます。
「大丈夫、戦わないさ」
「おいメイス、そんなやつら殺していい加減おっ始めようぜ」
「やめてくれ。私だってお前と戦ってみたい。だが彼女たちは私の大事な使用人なのだ。君が一歩でも動いたら、死ぬ気で彼女たちを守る」
ということは、このメイドたちがメラルが語った『監視役』なのでしょうか。
面倒な連中の子守を押し付けられているみたいで、可哀想ですね。年収なんぼなん?
「チッ、わかったよ」
ゼウルとしても、誰かを守りながら戦っているメイスに勝っても嬉しくないのでしょう。案外あっさり引き下がりました。
「助かるよ。辛いな、両思いというのは。求め合おうとするたび、引き剥がされる」
「忘れんなよ、いつか必ず、お前と本気の戦いをする。そして必ず、お前を殺す」
「図に乗るな異端児。殺すのは私だ」
えぇ……なにこの変態バカップル。
メイスも強敵に飢えてる頭イカレポンチだったんですか……。
ま、まあ愛の形は人それぞれ。他人に迷惑かけなきゃOKなんじゃないですかね?
「ところで、メイス」
「ん?」
「宿題教えてくんね?」
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数日後、コペニュたち仲良し4人組は校長室を訪れました。
エロけりゃなんでもいいドMの校長先生が、真面目な顔つきで語りだします。ドMのくせに。
「君たちが魔王の遺体の一部を発見したということで、他の部位が収められているであろう遺跡へ、調査員が派遣された」
「それでー?」
「虚偽の判断はあとにして、とにかく伝承のある箇所をしらみつぶしに当たったようだが、何もなかったそうだ」
「ダッサ♡」
「おそらく、長い年月によって消滅してしまったか」
「エリーナ殺しの犯人たち (推測)に盗まれちゃったか、だね」
「うむ。やつらの目的はさっぱり不明だが、とにかく君が持っている腕は、なんとしても守り抜いてほしい」
コペニュは自身の首にかけている収納玉を握りました。
このなかに、魔王の腕が収められているのです。
「このパーニアス様に任せてよ!」
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校長室をあとにして1年生の教室へ戻っていると、サーニャが気だるそうにため息をつきました。
「どうしたの? サーニャ」
「ちょっと疲れちゃって」
「あそっか、発光魔法を発動しまくってるんだもんね」
サーニャが右手に着けた黒い手袋を見せつけます。
遮光性の生地の下では、いまも手から発せられる光が点滅しているのでしょう。
魔力が尽きるまで同じ魔法を使い続けながらの日常生活とは、そうとう大変なはずです。
「なら」とメラルが提案します。
「これからは私が側にいて、回復魔法で疲れを癒そう」
うわ、サーニャと一緒にいる口実を見つけ出しやがったなこいつ。
「ありがとう。でも、ゼウル先輩が『魔力量を増やしたいならきちんと自然回復させろ』って言ってたから」
「そ、そうか……」
残念メラル。
無理やり魔力や疲労を回復させ続けると、いずれ体を壊す。的な意味なのでしょうかね。
ポツリと呟くように、マリトが忠告します。
「修行は大変結構ですけど、油断はしないでくださいね。いつ敵の刺客が来るかわからないんですから。もしかしたら、すでにこの学校に潜んでいるかもしれませんし」
「う、うん!」
とその時です、4人の背後からカシャリとシャッターを切る音が聞こえてきました。
振り返ってみれば、なんだか冴えないメガネの男子が、一眼レフからコペニュたちを覗き込んでいたのです。
コペニュが眉を潜めます。
「女の子を勝手に撮影するなんてモラル無さすぎなんですけど〜」
「ご、ごめんなんだな。僕は3年のピンクマン。写真部の部長なんだな。つい君がキラキラしていたから、思わず撮っちゃったんだな」
「キラキラ? ふ〜んなるほどね。私ってぇ、後ろ姿も可愛いから仕方ないよね♡」
仕方なくはないだろ。
「ふごふご。もう一枚撮りたいんだな」
「しょうがないな〜。あとで3万よこしな」
ピンクマンはやや興奮気味に、一枚に限らず何枚もコペニュを撮影し始めました。
コペニュもその気になっちゃって、あ〜んなポーズやこ〜んなポーズでピンクマンの劣情を挑発しています。
「こーんなちっちゃい子を必死で撮るなんて、先輩キモすぎ♡」
「ロ、ロリの罵倒最高なんだな〜!」
いまどき語尾が『なんだな』とは、ずいぶん時代錯誤やキャラですこと。
それにしてもピンクマン、どこかで聞いたことがある名前ですね……。
私に変わって、マリトがハッとしました。
「コペニュさん、その人つい先日まで少年院にいた人ですよ」
「そうなの?」
「なんでも、無許可で女子生徒の過激な写真を撮影し、それを売買したとかで、逮捕されてたはずです。出所してたんですね」
シンプルに性犯罪者じゃん。
「へ〜、筋金入りの変態なんだ♡♡ 変態♡ ド変態♡♡ 社会のゴミ♡♡」
「ふご〜! も、もう反省したんだな〜!」
とかいいつつ、ピンクマンは床にへばりついてローアングルからコペニュを撮り始めました。
コペニュはスカートがめちゃくちゃ短いので、下手したらパンツ見えちゃってます。気持ち悪い。
「や〜ん♡ 変態さんにパンツ見られちゃう〜♡」
「ふごふご! あとちょっと、あとちょっとなんだな〜!」
こいつらまとめて退学になればいいのに。
「そ、そのペンダントの玉、邪魔だから一旦預かるんだな」
「これ? ダ〜メ。これは渡せないよー」
「そう言わずになんだな。最高の一枚を撮りたいんだな」
「う〜んどうしよっかな〜」
「いいからいいから」
ピンクマンが収納玉に手を伸ばします。
と、メラルが彼の腕を掴みました。
「キサマ、怪しいな」
え? も、もしかしてこいつが刺客とか?
こんなふざけたやつが?
ないない。ありえないですよ。どこからどう見てもただの変態じゃないですか。
「ど、どこも怪しくないんだな!」
「可愛い子を撮影したいなら、サーニャを撮るはずだ。まさか、魔王の腕を奪うよう頼まれたんじゃないだろうな」
そんなガバガバ推理が当たるわけないでしょ。
「ギクッ!!」
ギクッ! じゃねえんだよ。
ガバガバ推理当たってんじゃねえよ。
えぇー、こんな軽いノリで登場するの〜。
もっとこう、シリアスで怖そうなキャラが刺客だと想像してたのに〜。
「バ、バレちゃったならしょうがないんだな。僕を少年院から出してくれた『あのお方』のために、魔王の腕をもらうんだな!!」




