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姉さん

作者: 津島はるか

 俺は最後まで、姉さんが怖かったんだ。五人兄弟の長女で、商売をしていた忙しい両親に代わって、俺たちの面倒を見てくれた、言わば母親のような存在だった。俺は、兄弟たちの中で、一番どうしようもない弟だったと思う。家の中でも、俺が一等姉に怒られていたし、学校では、先生に何かと反抗をしては、何度も呼び出されて、その度に姉が先生に頭を下げてくれた。家に帰ると、まじめになりなさいと説教を受けたが、俺はどうしても他の生徒のように、従順な生徒にはなれなかった。だけど余りに呼び出しをされると姉が口をきいてくれなくなるから、それだけは怖くて、暫く大人しくしていたこともあった。一週間ともたなかったが。卒業後は大工の棟梁のところへ弟子入りしたけども、博打で借金をつくって、首をくくるしかないと、姉に泣きついたことがあった。一度目は、懇々と説教をしながらも、仕方ないね、と金を貸してくれて、それが二度、三度と続き、姉は溜息をつきながら嘆き、嘆きは怒りに代わっていった。姉の旦那ー義兄が取りなしてくれたけど、四度目には俺も中々姉の家に行きにくくて、酒の力を借りて、酔った勢いで乗り込んだら、姉は遂に怒って、もう二度と家に来るな、家の敷居は跨がせない、と追い出されたんだ。その頃には大工の棟梁から破門を言い渡されていたから、俺はどうしようもなくて、仕方なく、日当の仕事で凌ぐようになった。姉から永久に見放されたかもしれないと思うと、井戸のどん底に落ちるような心地がした。だけど、血を分けた兄弟なのだから、そのうち姉の怒りも解けるだろうと思っていた。そんな中、姉が倒れたと二番目の兄から連絡が来たんだ。そのまま姉は息を引き取り、俺は最後まで姉を怒らせたままだった。見てくれ、あの遺影を。あんなに笑っている。他の皆んなには、ああやって笑顔を向けていたんだろう?俺には笑いかけてくれたことがなかったように思う。いや、あったかもしれないが、思い出せないんだ。

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