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4.はじめての海


 町は大騒ぎです。町の上に突然伝説のホワイトドラゴンが飛んできたのだから無理もありません。

 よくひびく美しい鳴き声と町を横切る素早く長い影に気づいて空を見上げると、太陽の光にきらきら白い毛をなびかせて大きなドラゴンが町の上をぐるぐると飛んでいます。


「ホワイトドラゴンだ!」

「幸運の白い龍がこの町にやってきた!」


 そこは大きくはありませんが、立派な港町でした。港にはいろんな国の、たくさんの船が行き来し、街は活気にあふれていました。

 港からおおきく張り出した半島が湾を囲み、白い帆をたたんだ大きな船が何隻もとまっているのがドラゴンの上から見えました。湾のむこうには、青く光った海がどこまでも続き、はるかかなたの水平線につながっています。

「なんてきれい」

 姫は、海を見たのはこれが初めてでした。


「おーい、どこにおりるつもりだい」 剣士がドラゴンに話しかけると、ドラゴンはちょっと後ろを振り向いて片目をつぶり、「さあ、しっかりつかまっていなさい」と返事をしてから翼をたて、街にむかっておりはじめました。


 ドラゴンがぐんぐん街に近づいてくると、街ではドラゴンを追いかけて集まってくる人、ドラゴンを見て逃げ出す人で大騒ぎです。

 ドラゴンは大きく羽根をはばたかせて、街の真ん中の広場にふわりと降り立ちました。たちまち広場には人があつまってきて、ドラゴンを中心に大きな人の輪ができました。

 ドラゴンは翼をひろげたまま大きく回りを見回したあと、しゃがんでその身をふせました。そのとき、初めて街の人たちはドラゴンに人が乗っているのを見つけたのです。もちろん人々の目は、ドラゴンに乗ってきた二人の人間にあつまりました。姫はこんなにたくさんの人の前に出たのは初めてでした。もっとも姫にとっては、とにかくお城を出てからというもの、なにもかもが初めてだらけなんですが。


 剣士は荷物をほどいてさっとドラゴンから飛び降り、つぎに恥ずかしがってまっ赤になっている姫の手をとってドラゴンからおろしました。

 二人が無事におりたのを見届けると、ドラゴンは天を仰いでまた、大きな翼をはばたかせました。

 巻き上がるすごい風とともに、ドラゴンはふわりと宙にまいあがり、そのまま空へ上ってゆきました。

 風にあおられて姫のフードがとれ、ホワイトドラゴンとおなじ銀色に輝く白い髪、白い肌、赤いひとみの姫の素顔があらわになりましたが、姫はそのことにはかまわずに、空高く上ってゆくドラゴンをそのままじっと見つめていました。

 きたときと同じようにドラゴンは街の空の上をぐるりと一周しています。ちょうど広場の真上にきたときに姫が大きく手をふると、一声大きく鳴いて、ぐんぐんスピードを上げ、ドラゴンはだんだん見えなくなってしまいました。


 まわりを見ると、どういうわけか街のみんなも姫と同じようにおおきくドラゴンに手をふって、歓声をあげていました。


「あんたたちは、白い龍の使いかい?」

「どこからやってきたの?」

「うちの宿に泊まっていってくれ。宿代はいらないよ」

「うちの店にもよってくれ。なんでもサービスするぜ」


 その日のうちに姫は、「白い龍の姫」と呼ばれて、街の大歓迎をうけました。

 大喜びの街の人たちにとまどう姫に、剣士は言いました。

「あいつ、気をきかせたつもりなんだぜ」

 あいつとはもちろん、ホワイトドラゴンのことです。


 カラアの魔法石はこの海をこえた、西の大陸のむこうにあります。姫たちは次は西の国へ渡るための船をさがさなければなりません。港にいってたずねると、ちょうどその日の午後に西にむかって出港する船があります。東の国の特産物を西の大陸に運ぶための貿易船で、人を運ぶ客船ではありませんでしたが、つぎの船を待っていると何日もかかってしまいますし、その間に城の追手がこの港町にもやってくるかもしれません。姫と剣士はなんとかその船に乗せてもらえないか貿易船の船長にたのんでみました。

 白い龍の姫のうわさはこの港にもとうに伝わっていて、船長は、「幸運の白い龍の姫さまを船に乗せられれば、航海の安全は保証つき。大歓迎させてもらいます」といってこころよくひきうけてくれました。


 うわさを聞いて、港には街の人たちが見送りに集まってきました。

 客船ならともかく、どこにでもあるただの貿易船がこんなに多くの人の見送りをうけるなんてなんともへんな話です。白い帆にいっぱいに風をうけて、船がするすると港を離れると、見送りの人たちがいっせいに帽子をふりました。


「姫さまー、気をつけてなー」

「またきてくれよー」

「かえりも、きっとよってくれー」


 姫もとっても恥ずかしかったのですが、デッキから身を乗り出して手をふりました。姫の銀色の髪が、潮風に吹かれてさらさらと光ります。

 港が遠く離れて、見えなくなっても姫はデッキにたたずんでいました。

 やがて日が暮れ、水平線だけになった海が金色に輝いて夕日が落ちてゆきます。

 姫は夕日にひかれるように、船のへさきへ歩いてきました。

 おだやかな風に吹かれて船はするするとすすみ、航海は順調です。


 剣士が姫の横に立って言いました。

「どうだい、船の旅は」

 姫は顔をかがやかせてこたえました。

「海ってきれいですね」

「そうだろう」剣士はうなずいて言いました。


「西の都についたら、もう姫さまはお姫さまじゃない。いままでみたいにはいかないぞ」

「はい。わたし、がんばります」


 姫が見ていたのは船がまっすぐ進んでゆく夕焼けの、西のかなたの水平線でした。



次回「西の都」

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